煙草の話
うちのキッチンは、主に「料理をするところ」ではなく、「給湯室兼喫煙所」みたいなものだ。
私がキッチンで煙草を吸うのは、ひとえに換気扇があるからだ。煙草はやめられないが、煙草のニオイは気になる。洗濯物は室内干しなので、ニオイが移ったら嫌なのだ。
あとの理由は、机に灰皿を置くスペースがないから。それにもし灰皿を置けたとしたら、無限に煙草を消費しそうな気がするから。
煙草の値段も昔に比べると上がった。私が吸い始めた頃は一カートン三千円くらいだった気がする。それが今やキャメルクラフトを一カートン買うと四千五百円だ。それより高い煙草もある。俗に「洋モク」と呼ばれる煙草だ。私のかつての愛煙であるラッキーストライクは、いまや一箱で六百二十円するらしい。一カートンは十箱。一箱の値段掛ける十の計算だ。あんまり考えたくない。
煙草は健康に悪いし、お金もかかるし、やめられるものならやめたい。外で吸いたくなっても、喫煙所や煙草が吸える飲食店は減っていく一方。おまけに煙草を吸わない人間にとっては煙草のニオイは嫌いなニオイランキングの上位に食い込む。現代の喫煙者は肩身が狭い。
そうは思っても、煙草が脳にもたらす一時の享楽は手放しがたい。平たく言うとただの依存症なのだが。
せめてもの抵抗でスマホに喫煙管理アプリを入れてある。一服した後にボタンを押すだけで、今日何本目の煙草を何時に吸ったか、前に一服してからどれだけ時間が経過したかがわかる。それでもまあ、一日に十本くらいは吸っている。
ネットに昔あったコピペを思い出す。「貴方が煙草を吸わなければあそこに停まっているベンツくらい買えたんですよ」とかいうやつ。確かあれは、「あのベンツは私のですが」という気の利いたオチだった。
もしいままで私が煙草を吸わなかったら、何が買えていただろうか。多分ベンツまではいかないだろうし、ベンツなんか欲しくもない。田舎生まれの人間にとっては車は足でしかない。安くて、物や人がそこそこ積めて、燃費がいいのが一番なのだ。
話が逸れた。もしいままで煙草に費やした額で何か買えたとしたら、なんだろう。いままでに私が買ったもので一番高価なのは、デスクトップパソコンではないだろうか。
なんだ。それくらいならいまだって買える。そう思い至ったところで、煙草が吸いたい。
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