初めての任務

2625年、ハンカーセンターの大講堂には、張り詰めた静寂が支配していた。若き訓練生たちは一糸乱れぬ列を作り、緊張に包まれたまま、運命の瞬間を待ち構えている。


その中に一人、漆黒に近い青髪を持つ十四歳の少年が立っていた。名は――ウィリアム・フロスト。

その瞳には、誰にも負けない強い野心の炎が宿っていた。


やがて、壇上の扉が開き、黒い制服を纏った背の高い男が姿を現す。その鋭い眼差しが全体を一瞥し、張り詰めた空気を断ち切るように声が響いた。


ホランド:

「全員そろってるな。しかも時間通りとは感心だ。

――手短に済ませるぞ。お前らがここにいる理由は、わかってるな?」


隣に立っていた書類を抱えた女性に視線を向ける。


ホランド:

「ローズ嬢、例の書類は?」


ローズ:

「はい、すべて用意してあります。」


ホランド:

「捨てろ。使わん。」


ローズ:

「えっ……ですが、これは――」


ホランド:

「反論は不要だ。俺は書類仕事が大嫌いだ。それで終わり。」


ローズ:

「……かしこまりました。」


ホランド:

「さて、本題に入る。

今回のDRの配属はランクや成績に関係なく行う。

お前たちは“何も知らずに”選ぶ。それがルールだ。」


そう言って、彼は訓練生たちを指差す。


ホランド:

「では最初は――ミスター・ダグ、お前からだ。」


選ばれたのは、余裕の笑みを浮かべ、頭を掻く少年だった。


ダグ(心の声):

「マジかよ……なんで俺が一番なんだ?

能力もランクもわからずに選べって、どうしろってんだよ……

まぁ、運に任せるしかねぇな。」


ガラスの向こうに並ぶDRたちを見渡し、適当に指差す。


ダグ:

「んじゃ、あの赤髪の子で。ほら……あのスタイル良い子。」


ホランド:

「番号で言え、間抜け。」


ダグ:

「あっ、えーと……13番っす。」


その後も、次々と訓練生たちはDRを選んでいった。


やがて部屋が静かになるころ、ウィリアム・フロストだけがその場に取り残されていた。

十五人のハンカーに対して、DRは十六人。

つまり、彼だけが――選ばれなかったのだ。


ホランド:

「DRを手に入れた者は、各自ミッションリーダーのもとへ向かえ。

――お前らの面なんか、もう見たくもない。解散だ。」


ダグ(小声で):

「はぁ?アイツ、本当にイカれてるな……」


ウィリアムは、ただ呆然と立ち尽くしていた。


ウィリアム(心の声):

「なぜ……

なぜ、俺は選ばれなかった……?

DRでさえ、ダメなのか……

あれだけ努力したのに……

筆記試験ではトップだった。

もし通常の選考なら、俺が一番に選ばれてたはずなのに……」


握り締めた拳は震え、悔しさで胸が張り裂けそうだった。


ウィリアム(心の声):

「ここで取り乱せば、拘束される。

冷静にならないと……でも、体が……怒りが抑えきれない……」


深く息を吸い、無理やり自分を落ち着かせる。


ウィリアム(心の声):

「父さん……ごめん。また、失敗したよ。

俺の夢見た世界なんて、俺には――届かないのかもな……」


彼は背を向け、静かに歩き出そうとする。


ホランド:

「おい、お前。誰が帰っていいと言った?」


ローズ:

「ですが、もう選考は――」


ホランド:

「選ばれたなんて、一言も言ってないが?」


ローズ:

「し、しかし……もう残ってるハンカーは――」


ホランド:

「"しかし"が多いな。

いるぞ、もう一人。ちょうどいいタイミングで来たな……」


バンッと扉が開き、息を切らした少女が駆け込んできた。


???:

「遅れてすみませーん!」


ホランド:

「アーレット・サーソン……また遅刻か。」


アーレット:

「緊張しすぎて、時間忘れちゃって……!」


ウィリアムは彼女をじっと見つめた。


ウィリアム(心の声):

「緊張で遅刻?冗談だろ……

まさか、こいつが俺のパートナーなのか?

終わった……」


ホランド:

「こいつが、お前のパートナーだ。」


アーレット:

「えっ!?この子!?

なんか賢そうに見えないけど……他にいないんですか?」


ホランド:

「全員、もう決まってる。」


ウィリアム(心の声):

「俺たちって……本当に“モノ”扱いなんだな。」


アーレットは小さくため息をつき、気を取り直したように頷いた。


アーレット:

「まあ、先生が推薦するなら信じます。

なんか……ミステリアスでカッコいい感じもあるし!」


そして勢いよくウィリアムの手を掴み、満面の笑みを浮かべる。


アーレット:

「はじめまして!アーレットです!超カワイくて、超楽しいです!

これから仲良くしよっ!名前は?」


ウィリアム:

「ウィリアム・フロスト。十四歳。」


アーレット:

「フロスト!?かっこいい名前!私たち同い年!?

ヤバいじゃん、もしかしたら恋人に……!」


ウィリアム:

「こ、恋人!?」


アーレット:

「冗談だって!

それくらいのノリが友情ってもんでしょ?」


ウィリアムは視線を落とし、少しだけ笑った。


ウィリアム:

「からかうなよ。最初から俺のこと気に入らないんだろ。」


アーレット:

「あっ、バレてた?

頑張って隠したつもりだったんだけどな〜。」


ウィリアム:

「なら正直でいい。

どうせ、俺たちのことなんて見下してるんだろ?

でもな――聞いておけ。

俺の名はウィリアム・フロスト。

そして、俺は史上最強のハンカーになる男だ。」


アーレット:

「じゃあ私も、史上最高のハンカー目指すもんね!」


ホランド:

「うるさい!さっさと出て行け!」


ウィリアム&アーレット:

「はーい!」


ローズ:

「本当にあの二人……うまくやれるんですか?

分野は違えど、どちらもトップクラスの実力者ですが……」


ホランド:

「だからだ。

同じ目標を持つからこそ、ぶつかり、支え合う。

……それに、アイツの息子だからな。」


ローズ:

「し、失礼しました。」


ホランドは窓の外を見つめながら、二人の背中を見送った。


ホランド(小声で):

「お前の息子が、ようやく最初の任務に出たぞ……

――あまり早く、そっちへ行くんじゃないぞ。旧友よ。」


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