「リーフのとなりで」

@poq_uz

第0話

『リーフのとなりで』


まえがき


この本を書こうと思ったのは、ある静かな午後でした。

店の棚に、ひとつの絵が置かれていた日です。

小学五年生の咲良さんが描いたその絵は、

スコーンの香りと「やさしい味」が、そっとひらかれた手の中に描かれていて、

それを見たとき、なぜだか涙が出そうになりました。


「ことばにならないこと」が、

だれかの絵や、本や、返事になって届いてくる。

そんな経験を、この場所に来てから、私は何度もしています。


「ひとつぶ」という喫茶店は、

かつて「リーフ」と呼ばれていた喫茶店の跡地にあります。

私はこの店のスタッフになってから、

この場所にある“なにかのつづき”のような時間と、日々、静かに暮らしています。


このエッセイ集では、

過去と現在がそっと重なる瞬間や、

ひとりの読者が返した言葉、

見知らぬ人同士が交わす、名もない返事たちを綴りました。


誰かの記憶に、そっとよりそうような本になりますように。


――紗英

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