第3話 彼氏(仮)が出来た

月曜日、今日も天気だ。陽射しが暑い。

今週、学校に行けば土曜日からは夏休みだ。

夏休みって、凄く嬉しい。嬉しいはずだ。

今週乗り切れば夏休みなのに。

嬉しい、頑張るぞと言う気力が沸かない。

先々週までは、夏休み前のテストがあったり忙しかった。

先週は、何か記憶がない。

忙しかったんだと思う。

朝からは、基本涼平が家に迎えに来る。

学校には必ず一緒に登校する。


…先週末は、言いたくない。

隣の奴が、ニコニコしながら俺を見てくる。

手を繋ごうとしてくるのを、絶対に嫌だと拒否したのに嬉しいらしい。

笑顔が眩しい。イケメンだが、何か残念な奴だ。

ついつい悪態をつきそうになるな。


まずは週末、何があったかダイジェストで伝えてみる。

手を繋いで、一回帰ると言って出ていった涼平ん家に戻って来たら、涼平の姉ちゃんと鉢合わせした。姉ちゃんは涼平の6つ上の21歳で、めちゃくちゃ美人だ。最近は大学の方が忙しいらしく(飲み会とかゼミ?とか言ってたな。)あんまり会わない。けど、昨日は久しぶりに夕飯を一緒に食べた。

風呂上がりで良い匂いがした。手を繋いでた俺等を見て、ふーん。おめでとう。やっとなんだ。って言ってて、意味はわかりたくない。

すぐに涼平の部屋に行ってお風呂に入りたかったから、一緒に入る?と言う涼平をシカトして1人で入ろうと、涼平のカーチャンにお風呂入ると伝えたら、やっぱり泊まるのね。おめでとう。と言われた。何でおめでとうなのかは、以下同文。

とりあえず、その後は一回だけ抜きあったり、一回だけねちっこいキスされたりもしたが、何事もなく(?)日曜日には自分の部屋で1人で寝た。

家族公認なのかは絶対に確認したくないです。


まぁ、高校も15分くらい歩けば着く。考え事してたら、あっと言う間に教室に着いた。


ガラっと、教室のドアを開けて。

「はよ。」

短めかつ憮然とした態度で挨拶して席につく。

あくまで自然にだ。

けど、教室がなんかざわつく。

…なんだ?と怪訝な顔をして、周りを確認する。

…コイツか。

真後ろの涼平が笑顔で挨拶するとか、滅多にない。

いや、今まで全くなかったからだ。

そんな様子だから、一応地元の友達 秋吉優弥が慌てて駆け寄ってくる。


「お前ら、ついにくっついたか?」

…コイツいきなりぶちかますな。

なんでそうなる。

「違う。」

間髪いれず俺は否定する。

「うん。」

涼平も、かぶせてくる。カオスか。


「ん?」

優弥は、俺と涼平の発言が真逆すぎて顔の片方の目と眉をこれでもかと細めてくる。顔芸器用だな。

「いや、だからくっついてない。」

改めて、彼氏(仮)だからな。まだ、くっついたとは言えないだろうと俺はもう一度否定する。

「金曜日から、付き合ってるよ。」

俺が否定しているそばから、涼平も負けじとにこやかにかぶせてくる。


「んん?つまり、どっちだ?」

優弥が聞いてくるから、改めて否定しようと口を開けようとした。

…瞬間に、ぐいっと顔を掴まれて、涼平にキスされていた。

「っ!!」

首痛い。

目を見開いてしまい、バッチリ涼平とも目が合う。〜〜もー、本当にコイツやだ。

クソっ。俺も瞬間湯沸かし器かってくらい一瞬で顔が赤くなってると思うが、それどころじゃない。

「っ離せ。」

出来るだけ、冷静に顔を離す。


「一応お試し期間だけど、付き合ってる。」

教室だし、友達の前なのに、違うって言う前にトドメを刺しにくる感じ。彼氏(仮)は事実だから否定もできない。フワリとシトラスの匂いもして、ドキリとしてしまう。


クラスの視線が集まってるのがわかる。

一気に、わぁっと歓声が沸く。

ヒューヒュー。

おめでとー。

ざわざわして手を叩くやつやら、指笛を吹くやつ。


…みんな何考えてんだ。公認かよ。

涼平も調子に乗って、ありがとうと手を振る。


「ついにくっついたか〜。長かったな。」

優弥は、全然涙なんか出てないのに、腕で目を隠す。嬉しいよとか言いながら、肩をバンと叩いてくる。…みんな頭どうかしてんな。


何か、俺が当事者のはずなのに蚊帳の外の気分だな。祝福ムードの中、妙に冷静になる。

俺は、別に嬉しくない。何か気持ちが追いつかない。

そんな俺の様子に、涼平だけが気付く。


「忠臣?」

いつも2人の時には、忠って言うのに。

皆の前では、忠臣って言う。

何か納得出来ない。

わからんけど、すっげぇモヤモヤする。

別に教室でキスしたり、付き合ってる事言う必要ねーじゃねぇか。


涼平を睨みつけるように一瞥いちべつして、席に座る。


先生も教室に入ってきてホームルームが始まる。

ざわざわしてた教室も落ち着き、優弥は涼平になんかごめんなとか言いながら教室の奥の一番前の席に戻る。


その日1日、ムカつく気持ちがおさまらなくて。

誰ともあんまり話をしなかった。

何時もなら、(自分で言うのも何だが)俺は愛想も良くて、イジられキャラだった。当たり前に受け入れてたが、イジられる気持ちにもならずに過ごした。


頭も痛くなって来て、ぐらぐらするから保健室に行ったら普通に発熱してた。

涼平は当たり前のように保健室に付いてきたし、鞄も持ってくれた。

全部の授業を受けた後だったから、普通に一緒に家に帰る。今日は月曜日で俺のかーちゃんはパートに出てる。本当は涼平の家でご飯を食べる日だったけど、食欲ないから要らないと自分だけで家に帰ろうとした。

涼平は、お粥作るよって言って付いてきた。

火曜日には熱が下がっていたけど、熱が出たのが久しぶりだったから休めた。


今日は火曜日だから、涼平のカーチャンがパートの日だ。

俺と涼平のかーちゃんズは交互にパートを入れてる。パートが休みの方の家に俺と涼平だけご飯を食べに行く。これは、小学校からの習慣だ。月、水、金は、俺の家。火、木、土は、涼平の家。日曜日だけはそれぞれの家でご飯を食べる。

たから、涼平は学校終わってご飯食べたら、俺と話をしに来るんだろうなとぼんやり考えた。

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