あんずとなつめ 〜ひとりとひとりが、ふたりになるまで〜

紅月蔵人

こころを結ぶまで

むかしむかし、山のふもとの小さな村で暮らす二人の娘がおった。

一人はあんずといい、いつも明るく微笑む娘。

一人はなつめといい、いつも下を向いている娘。


あんずの父母はすでに亡く、継母と継妹であるなつめと暮らしていた。


継母はあんずを疎んでつらく当たり、なつめばかりを可愛がる。

あんずはそれをわかっていたが、いつも微笑んでいた。



「あんず!まだ水を汲んでないのかい!」

継母が大声で怒鳴った。


「ごめんなさい。今すぐ!」

あんずは眉を下げてそう言った。


「昼前に言いつけたはずだよ!なつめが言ったろう!」

あんずはなつめをちらと見る。

なつめは舌を出して逃げていく。


「ごめんなさい。今すぐ!」

もう一度、あんずは言った。

なつめからは何も聞いていない。


それはいつものこと。

あんずは微笑んだ。

いつも、笑っていよう。

そう決めたから。


「本当に愚図な子だ!」

あんずは背中でその言葉を聞いた。

それはいつものこと。


桶を抱えて川に急ぐ。

走って、走って、走って。

急がなければすぐに暗くなる。

それほど遠い川だ。


走って、走って、走って。

胸が苦しい。

そういう時、あんずは胸元にしまった櫛に手をやる。

亡き母が遺した櫛だ。


母は村でたった一人の髪結いだった。

母亡きあと、あんずは見よう見まねで村人の髪を結った。

それももう手慣れたものだ。

村人たちはあんずを快く思っていたが、継母たちの仕打ちには何も言わない。



川のほとりにようやく着き、大きく息をつく。

ぽろりと涙が落ちそうになる。

でも、笑っていようと決めたから。

そしてまた胸に手をやる。

そうすれば勇気がわいてきた。


水を汲み、こぼさないよう注意して運ぶ。

桶一杯の水で三人がやっと生活できる。

こぼしてしまえば足りなくなるからだ。


慎重に慎重に、ようやく家へとたどり着く。

家に入ると、継母は皮肉めいた笑みを浮かべながら言った。

「本当に愚図な子!お前が遅いから、もう昼ご飯は全部食べてしまったよ。」


目の前には空になった鍋と食器。

ずきん、と胸が鳴るが、あんずはもう一度、その胸に手をやった。

口の端を上げ、微笑む。


「そうなのね。お鍋は私が洗うから。」

「当たり前だよ。それがお前の仕事だろう。」


継母がそう言い、なつめも口の端を引きつらせながら笑う。

いつものことだ。

あんずは明るく微笑み、空の鍋と食器を引き受ける。


なつめの食器を手に取った時、なつめが小さく呟くのが聞こえた。

「なんで……?」


その言葉があんずに向けられたものか判らず、あんずはなつめを見つめ、もう一度自然に微笑んで「うん?」と言った。


「な、何も言ってない!早く片付けて!」

なつめは顔をそむけ、声を荒らげて乱暴に食器をあんずに押しやった。

それは「いつものこと」ではなかった。



昼食は食べられなかったが、洗い物を済ませたらあんずの短い自由時間だ。

いつものように広場へ行くと早速、少女が髪を結ってほしいと言ってきた。

あんずは明るい笑顔で承知した。


少女を切り株に座らせて、まずは丁寧に髪をほどいていく。

そして胸元から櫛を出して柔らかな手つきで梳いていくと少女が声を弾ませて言った。


「あんずに髪を梳いてもらうとなんだか気持ちいいわ。」

「そう?良かった。」


そう言われると本当に嬉しい。

見よう見まねだった時は毎日が不安だったが、ほめられることが増えて自信につながった。

こうして人の髪を結っている時が、あんずの一番幸せな時間だ。


少女の髪を結い終わる頃、他の村人たちも集まっていた。

子供たちは「次は私」と先を争っている。


「順番にしようね。じゃんけんで決める?」

ふふと微笑みながらあんずが言う。

すると、少女が声を低くして言った。


「あ、なつめ。」

彼女が指さしたほうを見ると、なつめがびくっと身体を強張らせていた。


ちょうど、あんずは少女の髪を結い終わった。

笑顔のままなつめに手を差しのべる。


「髪、やってあげるよ。」


なつめはしばらく、その姿勢のまま何も言わなかった。

そして、絞り出すような声で「いらない!」と乱暴に言うと走って行った。


「なつめってへんな子だよね。」

少女はそう言い、その背中を見つめていた。

あんずは首を横に振る。


「そんなことないよ。誰だって、へんなことなんてない。」


その言葉はふわっと風に乗り、なつめの耳のそばでささやいた。

なつめは一瞬振り返り、それがあんずの言葉であることに気づく。


「へんなことなんてない」

どうして?

なつめは思った。


どうして?

あんなにいじわるしたのに。


どうして?

あんなにつらそうなのに。


どうして?

どうして笑っているの?

どうして私に笑ってくれるの?


なつめは自分が涙を流していることに気づいた。

木陰に隠れて涙をぐいと拭う。




それから数日。

なつめはあんずを避けていた。

それは「いつものこと」ではなくて。


いつもなら、継母と一緒にあんずを悪く言う。

今日も継母があんずを怒鳴ったが、なつめは何も言わず家を出た。


あんずは少し心配になる。

なつめはなんだか元気がない。

どこか痛いところがあるのではないか。


追いかけてなつめに声をかけてみるが、彼女はまたびくっと身体を強張らせる。

「話しかけないで!」と言われるのを必死で間をつなぎ、言ってみた。


「最近、元気がないみたいだから……大丈夫?痛いところはない?」


そうすると、なつめは身体を強張らせたまま、目を大きく見開いてあんずを見つめた。

「どうして……?」


なつめの口からも漏れ出た言葉を、小首をかしげてあんずは繰り返す。

「どうして?」


それを聞き、なつめははっと我に返った。

「なんでもない!放っておいて!」

あんずがほんの少し握っていたなつめの袖がぐいと引かれる。

なつめはそのまま走って行ってしまった。




今日も広場であんずは村人の髪を結う。

それをなつめは遠くから見つめていた。


人々に囲まれて笑っているあんずはとてもまぶしくて。

きっと今日も明日も明後日も、ずっとあんずはまぶしいまま。

自分はどうだろう。


あんずみたいに笑えたら。

あんずみたいに可愛い顔なら。

あんずみたいに誰かを気遣えたら。

あんずみたいに誰かを喜ばせられたら。


私ももっと優しくなれるかもしれない。


でも。

なつめはうまく笑えない。

なつめは可愛い顔じゃない。

なつめは気が回らない。

なつめは誰も喜ばせられない。


なつめの心に黒く重い石が沈んでくる。

あんずだって、あの櫛さえなければ……。


なつめは知っていた。

あんずが誰よりも遅く眠りにつくとき、その櫛を大事そうに撫でてから小さな箱にしまう。

あれさえなければ、きっと。



夜が深く闇を落とす頃。

眠っていなかったなつめが床を出る。


掃除や後片付けをこなした後に眠るあんずは深く眠っている。

きっと揺さぶっても起きないだろう。

それでも息を殺し、なつめはその小さな箱に手を伸ばした。


これさえなければ、きっと。



次の朝。

あんずは誰よりも早く起きる。

朝食の支度をするためだ。


なつめは寝たふりを続けてあんずの様子を伺う。

気が張って眠れなかった。


あんずが布団を畳んで仕舞う音が聞こえる。

そして、あの小さな箱を持ち上げてふたを開けた。


「あ……あれ……?」


動揺を含んだ言葉。

そう。ちょっと困らせられたらいい。

返してあげる代わりに何か言いつけるのもいい。

なつめは布団の陰で息を殺す。



「あ……ああ……あの櫛、お母さんの形見なのに……

……なくなっちゃったなあ……。」


誰に言うというわけでもなく、あんずは呟いた。

その語尾は震えていた。


亡くなった母が唯一残してくれた物。

一人だと感じた時、この櫛だけが心の支えだった。


髪を結うことで村の人たちともつながっていられる。

それが、もうない。


昨夜、大事に箱にしまったのは間違いない。

櫛が自然になくなることはないだろう。

それなら……。


たった一つの大事な思い出すら奪われてしまうのか。

でも、言えない。


継母が街に野菜を売りに行くことで生活していける。

あんずはまだまだ子供だ。

一人で生きていくことはできない。


どうしたら良いか判らない。

どうしようもないとしか思えない。

ただ、大きな喪失感しか感じられない。


やるせない。

何もできない自分が悔しい。


大粒の涙がぽろぽろこぼれる。

だけど、声を上げて二人を起こしたくない。


のどの奥からこみあげてくる嗚咽を必死で飲みこむ。

だが、涙は止められない。

あんずはただただ、声を殺して泣くことしかできなかった。



布団の中のなつめはその様子を音で感じ取っていた。

お母さんの……形見……


ちょっと困らせられたらいいだけだったのに。

あんずが泣くのを初めて聞いた。


こういう時、どうすればいい?

ごめんなさいって言えばいい?

それとも悪気なく「ここにあるよ」と言えばいい?

いったい、どうすれば……。



しばらくは何度も息を次いですすり泣いていたあんずが、その嗚咽を飲み込むように大きく息を吸った。

「……しょうがない、ね。」


そう言うとあんずは立ち上がり、窓を開けてかまどに火を入れ、いつもと同じように食事の支度を始める。

どうすれば良いか判らないまま、なつめは継母が起きてくるまで布団の中で身を強張らせていた。



返さなきゃ、いけない。

でも、自分が盗ったことは知られたくない。

どうしよう。どうしよう。どうしよう。



一日、なつめは櫛を隠し持っていた。

気分が晴れず、外に行く気にもならない。


あんずはいつもと同じように家事を続ける。

いや、いつもと違うのは、昼食のあとの短い自由時間に広場に行かなかった。


休みも取らず、いつも以上に家事をこなす。

いつもと違ってあんずの顔には笑みがなかった。



どうしよう!私のせいだ!どうしよう!



なつめの頭の中はその自問でぐるぐると渦巻いていた。

そして、一つの案を思いつく。


これなら私のせいじゃない。

きっとこれが一番いい方法だ。




夜になると継母が鏡台の前に座って、眠る前の肌の手入れを始める。

そして、引き出しを開けると「おや?」と言った。


「なんだい、これ。」


継母が取り出したのはあの、櫛。


「あ……!」

あんずが驚きと喜びの混じった声を上げる。


「ずいぶん良い櫛だね。売りに行ってみようか。」


「え……!」

あんずとなつめの声が重なった。


売りに行く、などという発想が無かった。

なつめは知っている。その櫛があんずの大切なものだと。


「お母さん!それ、あんずのなの!売っちゃだめ!」


あんずの驚いた顔がなつめを見つめる。

母も驚いた顔でなつめを見つめる。


「あんずの?どういうこと?」


ここで、なつめは必死で考えた言い訳を話す。


「お、落ちてたから、お母さんのだと思って鏡台に入れたの。」


それしか答えを用意していなかった。

その言葉が矛盾していると気づくのにしばらくの間があった。


「じゃあお母さんのものだね。あんずには勿体ない。」

「お母さんのじゃないよ!あんずのなの!」


なつめは取り返そうと母親の手にすがる。

あんずはただただ驚いて立ち尽くすだけだった。


「この子にこんな良い櫛は要らないよ。

私が街で売ってくる。そのお金でおいしいお菓子でも買ってこよう。」


うきうきと継母が言った。

ダメなんだ!それはあんずの宝物なのに!


「……お願い!お母さん!もうやめて!あんずをいじめないで!

櫛を返してあげて!お願い!」


溢れる涙を拭おうともせず、なつめは叫んでいた。


「ふん。なんだよ。つまらない。」

継母は少し動揺したような調子でそう言い、櫛をなつめに放り投げた。

なつめは慌ててそれを受け止める。


なつめは、ただただ驚いて立ちすくむあんずの前に進む。

今受け止めた櫛を両手で持ち、あんずに差し出した。

そして、勇気を振り絞り、振り絞り、ようやく言葉を出した時、なつめの両手は震えていた。


「あの……ごめん……」

それは消え入りそうな小さな声だった。

あんずは驚いた顔のまま、ただなつめを見つめていた。


「……あの……ちょっと困らせるだけの……つもりだったの……

こんなことに……なる、なんて……あの……あの……」


思えば思うほど言葉が出てこない。

なつめは息を継ぎ、どうにか伝えたいと思った。


「あの……あの……」


嫌いなわけじゃないの。

いじめたいわけじゃないの。


思いは溢れるが、言葉は出てこない。

もどかしくてただ「あの」という言葉しか言えなかった。

すると、何かを察したようにあんずが小さく微笑んでうなずく。


「ちゃんと、聞いてるよ。」


その言葉を聞いた瞬間、なつめの目からは涙があふれた。


「ごめん……ごめんなさい!私……なにをしたかったのか……

自分でもよくわからなくて……本当にごめんなさい!」


あんずが、震えるなつめの手を取り、そっと両手で包み込んだ。

その手が温かくて、なつめの固い心が少しほころんだ。


あんずはゆっくりとなつめの手から櫛を受け取って、静かに目を閉じる。


「……ありがと……」


あんずはその櫛を大事に、大事に胸に当てると涙があふれ、その感情のままに泣き出した。

なつめにとっては初めての出来事で、少し戸惑った。

でも、こうすればいい、ともう知っている。


なつめはあんずの肩を抱き、一緒に泣き出した。

抱き合いながらお互いの体温を感じているとなぜか安心感が押し寄せる。

言葉では伝わらない二人の想いが、今、重なった。


それからどのくらいか。

声を上げて泣いていた二人の呼吸はやや穏やかになり、いつの間にか二人はまぶたを閉じて眠ってしまった。


こんなに暖かな眠りは初めてだった。



夜が明けて小さな鳥の鳴き声が外から聞こえる。

なつめが目を覚ますと、すぐ目の前にあんずの微笑みがあった。


そういえば、昨日はあんなこと……!


一瞬、なつめは身体をびくっと強張らせる。

すると、あんずはなつめの手を取り、また温かい手で包みこんだ。


「大丈夫。大丈夫だよ。

私たち、家族だもん。

だから、大丈夫。」


それを聞くとまた、なつめの心が大きく動く。

その目からは涙があふれ、また嗚咽を漏らしてしまう。


「もう、なつめちゃんったら……」

あんずはそう言い、少しの間、息を吸い込んだ。


「なつめったら、目が真っ赤だよ?」


そう言いながら、あんずの目にも涙が浮かんでいる。

笑い泣きしながら、あんずとなつめはお互いの涙をぬぐいあう。



「あんたたち!」


継母の怒鳴る声が聞こえ、二人はびくっと身体を硬直させた。

泣き声が気に障ったのか。それとも食事の支度を急かすのか。


「ごめんなさい。今すぐ……」


いつものようにあんずが立ち上がろうとした。

が、継母は湯気をあげる鍋を持って来たところだった。


「久しぶりに自分で作ったからね。

……おいしいかどうかは判らないよ!」


ぶっきらぼうにそう言い、鍋を囲炉裏にかけると正面に座る。

そして、両手で両隣の座布団を叩き、「ここに座れ」と示す。


なつめはいつものように母の隣。

あんずは初めての、継母の隣。


継母は鍋から料理を椀に取り分け、最初の椀をあんずの前に差し出す。

少し、手が震えているように見えた。


あんずはその手をまた、両手でしっかり覆って椀を受け取る。

椀を置いたあと、胸に手をやり、小さくうなずいた。


「ありがとう。お母さん。」


その言葉を聞いて、継母は一瞬、息を飲んだ。

今度はなつめに椀を渡しながら、またぶっきらぼうに言う。


「礼なんて要らないんだよ。

か…………家族だからね!」


その言葉に、あんずは大きく目を見開いた。

そして、その言葉を受け取って胸に仕舞うようにまた胸に手を当てる。


「わかった。ありがとう。お母さん。」


「また言ってる。」

笑いながらなつめが指摘すると、あんずがふふ、と笑い、母も笑みをこぼした。


三人揃って初めての朝食だった。



家事を分担することになり、あんずは以前より村人の髪を結う時間が多くなった。

すると、最初は数人が、のちに村の全員が、髪結いに対価を払い始めた。

それは野菜や新しい衣服の時もあったが、お金で払う人も居た。


あんずにとって、髪結いが職業になった。

毎日が幸せの日々だった。


他の村から希望者が来たり、あんずが街に出向いたりして、よりたくさんの人の髪を結うようになった。

忙しくて手が回らない時、なつめが道具を洗ったり、希望者の順番を決めたりして手伝うことも多くなった。



たくさんの客がようやく引いた時、なつめはあんずに申し出る。


「あのね、あんず、忙しいじゃない?

だから私、ずっとあんずを手伝えばいいんじゃないかって」


その言葉を、あんずは初めて見せる厳しい表情でさえぎった。


「それは、だめ。

なつめは、なつめの好きなことを探さないといけない。」


なつめの、好きなこと。

そう言われても、なつめが好きなのはあんずを手伝うことだ。

あんずほどではないが客から「ありがとう」と言われることも増えたし、とてもやりがいがあると思っている。


「なにか、ない?

なつめの好きなこと。」


好きなこと。

思いつかない。

「あんずを手伝うこと」は、もう正解ではないと知っている。


「じゃあ、なつめ。

なにか、したいことはない?

なにか気になっていること。」


気になっていること。

目をつぶり、じっくり考える。


すると、目の前のあんずの手が赤くひび割れていることに気づいた。

家事の時の冷たい水に負けたり、人々の髪を触るときに傷になったりしてしまう。


「あんずの手。」

「私の手?」


言われてあんずは自分の手を見た。

あんずにとってはこれが「いつものこと」なので、何を言われているか判らない。


「あんずの手、真っ赤じゃない。

そういうの、治せる薬を作れたら……

あんずがもっと楽になるような薬を……」


言いながら、それが確信に変わる。

ふわふわとした思い付きが、急速に形を固めていく。


「そういえば街に、肌荒れを治す薬を売ってる店があった。

そこで、作り方を教えてもらったら……。」


聞きながら自分の手を見ていたあんずが、心からの笑顔を見せる。


「私のために?本当に?

ありがとう。ありがとう、なつめ。」


あんずはなつめを抱きしめ、何度も「ありがとう」と言った。

なつめは少し照れるような、ほめられた時に感じる気持ちになった。


「もう、あんず。またありがとう、って言ってる。

私たち家族なんだから!」


そうして二人は屈託なく笑い合い、お互いの肩をしっかり抱き合った。




数年後。

今日はなつめが独立して初めてお店を開く日だ。

お店の名前は『なごみ』。


手荒れや切り傷、やけどによく効く軟膏だけではなく、肌の調子を整える化粧水、髪につける香油などの化粧品も扱っている。

すべてなつめが薬草を選んで摘んだり、遠くの名水を汲んで来たり、香りの強い花を選んで抽出したりして、心をこめてひとつひとつ丹念に手作りしたものだ。


そして、そのお店は。

先にお店を立ち上げたあんずの髪結い亭『ここち』の隣に開店した。


あんずは「結う人」に、なつめは「癒す人」になった。 ふたりはそれぞれ、見えるものと見えないものを、美しく整えていた。


こうして、ひとりぼっちだったふたりの少女は、つらいことも幸せなことも分け合って、本当の家族になっていった。

そして、いつまでも仲の良い姉妹の店として、長きに渡って栄えた。



これは、あんずとなつめの物語。

もしあなたがひとりぼっちと感じるなら、この物語を思い出してみてください。


こころとこころを優しく結んで、お互いに高めあえる。

……そんな相手が、あなたにも見つかりますよう。


とっぴんぱらりのぷう。




◆----◇ あとがき ◇-----◆

最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

この作品は、とある民話がきっかけで書き始めました。


とある民話、といいつつ、実はその民話のタイトルが思い出せません。

内容としてはこの作品のように継母にいじめられる娘が居て、最終的にシンデレラや灰かぶり姫のようにハッピーエンドになります。

が、その物語に、「継子の髪は撥ねて、櫛を通すとピンピンパラリンと音がする」という一節があった……と記憶してるんです。


その「ピンピンパラリン」だけやたらと覚えてて、印象的な節なのでググったら出てくるだろう、と甘く考えていたのですが、ぜんっぜんヒットしませんでしたw

瓜子姫か鉢担ぎ姫だろうと思ってたんですけど、どちらも全然違う話で。


もしかしたら、昔話によく使われる結びの言葉「とっぴんぱらりのぷう」とごっちゃになってるのかも。

と、勝手に納得して、「ないなら作ればいいじゃなーい?」ということで書いた作品です。

結局「ピンピンパラピン」は全然出てこないんですけど。(笑)

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あんずとなつめ 〜ひとりとひとりが、ふたりになるまで〜 紅月蔵人 @kraud_k

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