第42話 本当の姿

「ケー―――――ン」

その時、紫の不死鳥が大きな声で鳴いた。

「僕はやる事があるので。」

ロスタルは不死鳥の声を聞くと皇帝を無視して、ハンナの腕を掴み歩き出した。

「ロスタル侯爵。少し前に“復讐の為に”って言ってましたよね?あれは皇帝の事なのですか?」

ハンナはロスタルに質問した。

「そんな事言いましたっけ?」

いつもの様にロスタルはとぼけるが、今までみたいに嫌な気持ちはあまりしなかった。ロスタルは黙ったままズンズンと道を歩いた。


「おい、何している。ロスタルを追うぞ。」

皇帝がアンベスとコットに言った。二人は青ざめていた。

「皇帝、帰りましょうよ。」

アンベスが情けない声を出した。

「おい、我が血を引いておるならそんな情けない声を出すな。」

皇帝が睨むとアンベスは小さくなった。

「私は帰っていいでしょ。女の子だしね。」

コットが苦笑いしながら聞いた。

「コット。お前はこんな時の為にわざわざ大金を使って呼んだんだ。帰らせるわけないからそのつもりでいろ。大体、お前がハンナ達を直ぐに見つけて居ればこんな面倒な事にも巻き込まれなかったんだからな。この私にこんな苦労させておいてただで済むと思うなよ。」

コットは少し不貞腐れた顔で黙り込んだ。三人はロスタルとハンナの後を追って行った。



「ロスタル侯爵、何があったのか話して下さい。」

ハンナはロスタルに言った。

「時が来たらきちんと説明するよ。」

ロスタルはいつになく真面目だった。ロスタルは強く掴んでいたハンナに腕を離して歩いた。

「うわあ!」

その時、突然脇の山道からサーブル、エトワール、モンテスの三人が転げ落ちて来た。

「きゃあ!」

ハンナの悲鳴にロスタルは足を止めた。

「ハンナお嬢様!」

サーブルが直ぐに立ち上がった。

「サーブル!貴方達もここへ来たのね。」

ハンナの表情が明るくなった。

「今はおしゃべりしている暇はないよ。皇帝の魔力がどんどん強くなって来ている。このままだと僕たちみんな殺されてしまうかもしれない。」

ロスタルはそう言うと歩くスピードを上げた。



「ロスタルはもしかして彷徨いの谷へ向かっているのか?」

皇帝が辺りを見回した。

「ええ!?彷徨いの谷って怪物たちがウヨウヨ居る所ですよね。怖い……」

アンベスの泣き言にコットもイライラした。

「お前はなぜいつもそうなんだ?いい加減にしろ。」

皇帝のその言葉にアンベスはもっと泣きそうになっている。

「てか!もう私は限界!なんでこんな所まで来なきゃいけないの!?腹立つんですけど!もう離脱する。」

コットはそう言うとその場に立ち止まった。

「コット、歩け。私はあの紫の不死鳥に触れたいのだ。」

「だったら自分達だけで行けば!?私、別に必要ないじゃん!城で待ってるから。」

コットはヒステリックに叫んだ。

「コットー。そんな事言うなよ。一緒に行こうよー。」

アンベスは一人で皇帝に付いて行くのは怖いのでコットを引留めた。

「嫌よ!もう、泥まみれだし、喉乾いたしお城でバラのお風呂に入って葡萄酒でも飲みたいわ!」

コットはくるりと反対方向を向き、歩き出した。

「コットォそんな事言わないで。ここから城まで歩くの大変だよ。」

「はっ。あんた私を誰だと思ってんの!?妖術使わせたら右に出る者が居ない位なのよ。トボトボと歩いて帰る訳ないでしょ。城までの距離ならひとっ飛びよ!」

コットは怖い顔でアンベスに言い返した。


「そうだな。コット。お前の妖術はとても素晴らしい。そうだ、アンベスにもお前の本当の姿を見せてやれ。」

皇帝がコットに言った。

「え?」

その言葉にコットはキョトンとなった。

「え?本当の姿っ……」

コットが皇帝に聞き返そうとしたがその途中でコットの心臓の辺りを掴む仕草をした。

「うううっ……」

コットが急に苦しみ出した。アンベスは鼻水を垂らして震えた。

「コットよ。本当はお前も血を抜いてやろうと思ったが、エトワールの魔力を手に入れてからそんな面倒な事をする必要がなくなった。こうするだけでそいつの力が手に入る様だ。」

皇帝はそう言うと掴んだ手を上に突き上げた。するとコットの身体から白い煙の様な物がふあっと抜けた。

「じゃあなコット。」

その白い煙の様な物は皇帝の中に入って行った。それが入った瞬間皇帝の体は倍程に大きくなり獣の様な体つきになった。

「なななな、今のは何ですか?コットはどこに行ったんですか?」

アンベスは恐怖の余りガクガク震えて失禁してしまった。

「情けない奴め、コットならお前の足元に居る。それがお前が愛した女の正体だぞ。」

皇帝はそう言うとスタスタ歩き出した。

「え?」

アンベスは泣きべそをかきながら足元を見ると蝉の脱げガラみたいな干からびた小人が居た。

「これがコット?」

アンベスがよく見ようと顔を近づけると「キー」と鳴き声を出して逃げて行った。

「ひっ!皇帝―。待って下さいー。」

アンベスは益々怖くなって皇帝の後を追った。


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