第27話 予想外の助っ人
―――数時間前、老いの村にて―――
「村長!あの皇帝がまた来たのですか!?」
地下のシェルターに避難した村人が戻って来た村長に口々に尋ねた。
「ああ。ハンナお嬢様を探しに来た。呪術師も連れて来おった。サラ夫妻の家にも行ってるだろう。とりあえず、ここに居ると安全だから心配はいらないぞ。」
村長は顎髭を触りながら遠くを見つめた。
「あの、ここの村の方が皇帝から身を隠すのはなぜなんですか?」
ハンナの父が聞いた。
「皇帝は強欲な奴だ。わし等の様な老いぼれからでも血を抜きそれを呑んで魔力を自分の物にしようとしておる。だから結界を張ってどこに居るか分からない様にするのじゃ。最初は城で若い者の面倒を見るなどといい事を言っておきながら、皇帝の元から帰って来た若者は一人もおらん。恐らく皆、皇帝の生贄になったのであろう。本当に憎い。」
村長が話すと泣き出す村人も居た。
「皇帝は若い村人の血を呑んで魔力を持とうとしている……。なんと悍ましい男……。」
ハンナの母が震えた声で呟いた。村長は難しい顔をした。
「もしかするともう、皇帝は魔力を使えるようになっているかもしれん。そうなっていたら私らでは太刀打ちは出来ない。」
その話を聞いてハンナの両親は嫁に出してしまった事をとても後悔した。
「どうにかして仇を打ちたいものじゃ。」
村長のその言葉に村の皆も頷いていた。
「村長さんも、この村の方も魔力があるのですよね?どうにか出来ないのでしょうか?」
ハンナの父が聞いた。
「皇帝はかなり警戒しておるのじゃ。私は対象者の二メートル位の距離まで近づかないと、瞬間移動は出来ない。今日みたいにあの変な妖術使いと一緒に来られると術を跳ね飛ばす結界を張るので手一杯になってしまう。妖術使いは色んな術を使い我々を錯乱させるんじゃ。中々、上手くいかないもんじゃなあ。それに、皇帝の城まで攻めるには金も武器も必要じゃ。どうにも出来ん。」
村長はまた顎髭を触った。
「そうなのですね。何かお力になりたいですが難しいですね。どうにか出来ないでしょうかね。」
サラ夫妻は肩を寄せ合った。
「この村の事をそんなに真剣に考えてもらえるだけで嬉しいわい。もう老いぼれしか残ってませんし、リテが生きてると分かっただけでも嬉しかったです。今、もう二十歳になるのでしょうか。きっと可愛く育っているでしょう。そう、この目の前にいる様な女性の様に……」
村長は悲しみの余り、目の前にリテの大きくなった姿を幻覚で見た。
「え……?お父様?」
村長達の目の前に現れた女性はリテだった。若い頃の村長の奥さんにそっくりな可愛い顔だ。
「リ……テ……?」
村長も村人もサラ夫妻も皆、ポカンとしていた。
「リテ!!!お帰り!リテ!」
一番初めに駆け寄ったのは村長の奥さんだった。
「お母様……?」
リテは声が出ない位、喉が熱くなった。
「リテ。お帰り。よく帰って来てくれたね。」
奥さんは泣きながら小さい子供をあやすようにリテを抱いた。
「お母様―。会いたかったー。」
リテは子供に戻ったかの様にワンワン泣いた。
「リテちゃん。可愛くなったなあ。戻って来てくれたんだ。」
村人たちも皆、涙を流している。
「リテ。どうやってここに来たんじゃ?」
村長が涙を堪えながら聞いた。
「あっ、それはハンナお嬢様がお父様からのペンダントを私に渡してくれたのです。」
リテはハンナの両親を探した。
「あ、ハンナお嬢様のお父様とお母様ですね。私、お嬢様のお陰でここに帰って来ることが出来ました。」
リテはハンナの両親に深くお辞儀をした。
「ハンナに会われたのですね。リテさんがここに戻って来れて本当に良かったわ。」
ハンナの父と母は自分の事の様に喜んでくれた。
「リテちゃん。本当に良かった。」
村人達は久しぶりに若い者が帰って来てくれた事を喜んだ。
「ところで、他の人は無事なのか?」
村長がリテに尋ねた。
「私が居た時はまだ大丈夫でしたが、もしかするとサーブルの身に何か起きそうな気がします。」
リテは神妙な面持ちで答えた。
「サーブルが!?あの剣の腕前なのに!?」
ハンナの父が驚いた。
「ええ。私には未来を予知する魔力があります。そんなに強い力ではないのでハッキリと全部見えたり、起こりうる全ての事を言い当てる事は出来ませんが、見えた未来が外れる事はありません。恐らく、サーブルは誰かの魔法によって危険な目に合うと思います。」
「そうか、サーブルが頼みの綱なのに…、ハンナとエクラさんが心配だな。」
ハンナの父の意見にそこに居た者全員が賛同した。
「リテを返してくれたんじゃ。わしらもハンナお嬢様達を助けに行かなければいけないな。」
村長もメドックも村人も覚悟を決めた様だった。
「では、作戦会議に入ろう。」
村長はこの村から城までの道が載っている地図を開いた。
「ここから城まで馬に乗ると五時間位で着くが、この村には私らと同じように年老いたロバと馬しかおらん。だからといって歩いていたら何日かかるかわからん。どうすればよいのじゃ。」
村長も村人も皆、頭を抱えた。
「村長さんの瞬間移動の魔法はどうなんでしょう?」
ハンナの父が村長に聞いた。
「ここに瞬間移動の魔法を使える者はわしを含めて数名おるが、みな年老いて一人、二人の移動なら大丈夫だがここに居る全員をとなると無理じゃ。それにこの間の山賊達を彷徨いの谷に瞬間移動させた時の疲れがまだ残っておる。本当に情けないわ。」
村長はガッカリした様子だ。
「いえ、とんでもない。それは仕方のない事ですし、あの時はとても助かったのでそんな風に仰らないで下さい。」
ハンナの父は申し訳なさそうに言った。
「城の警備は厳重です。強力な結界を張る事が出来れば誰にも気づかれず城に近づく事は出来ます。村人を総動員すれば出来なくはないと思うのですが、その為の馬や、もし何かあった時の武器を買う為には資金調達が必要になります。時間がかかり過ぎてしまいますわ。」
リテが村長やハンナの両親に言った。
「村長、どうしましょうか。何かいい方法はないでしょうか。」
メドックと奥様も必死に考えた。
「村長。一人ならば瞬間移動は可能ですか?」
ハンナの父が何か思いついたかの様に村長に聞いた。
「え、ああ。一人なら大丈夫だが。」
「村長のお力を使わせて頂いて申し訳ないのですが、私を長女の所へ移動させて下さい。長女は大富豪の所へ嫁いで行きました、理由を話したらきっと力になってくれると思います。」
ハンナの父がそう言うと今度は母が口を開いた。
「それはいい案だと思います。では私を次女の所へ移動させてください。次女もまた大富豪の元へ嫁いで行きましたので力になってくれないか聞いてみます。」
「わざわざそんな事までして貰って。本当にありがとうございます。そう仰って下さるなら娘さんの所へ移動しましょう。」
そう言うと村長は立ち上がりハンナの両親の元に近づいた。
「では、まず長女さんの所へ行きますぞ。」
そう言うと村長はハンナの父の手を取って呪文を唱え始めた。村人たちとリテと母が心配に見ているとパッと一瞬で消えた。
「あれ!?お父様!?」
長女は優雅に旦那様とティータイムを楽しんでいる所だった。
「突然、現れて申し訳ありません。緊急を要していたので失礼は承知でこのような形で伺ってしまいました。」
「お義父さん、どうされたのですか?これは魔法ですか?素晴らしい。」
旦那様は魔法を初めて見たので興奮している。
「え、何?どうされたの?」
長女は父がいきなりこんな形で来るのは何かあったに違いないと思った。
「実は……」
長女と旦那様に事の成り行きを説明した。
「酷い話だ。デグラスの横暴ぶりは噂には聞いていたがそこまでとは思わなかった。」
旦那様は呆れた様子だった。
「ハンナは無事なの?」
長女はハンナを溺愛していたのでとても心配している。
「ああ無事の様だが、ハンナの護衛をしてくれていた騎士が危ないみたいなんだ。こんな事を頼んでみっともないし非常識だがハンナ達を助けに行く資金の援助をお願いしに来ました。」
父は頭を深々と下げた。
「お義父さん。顔を上げて下さい。困った時に助け合うのが家族です。頼って貰えて嬉しいです。」
「本当にありがとうございます。必ずお金はお返します。」
父は涙が溢れて来た。
「いえ、お金の返済はいらないです。その代わり、ハンナちゃんを連れて遊びに来てください。ハンナちゃんの無事が確認出来たらそでいいです。」
「いやん!旦那様!最高にかっこいいわ!」
長女はそんな旦那に抱きつきほっぺたにキスをした。旦那は金庫から大金をポンと持ち出し父に渡した。
「本当に感謝します!この御恩は忘れません!」
父と村長は何度も二人にお礼を言いながらスーッと消えて行った。
「ワオ!魔法初めて見た!感激だよ!」
一人ではしゃいでいる旦那を微笑ましく見つめる長女だった。
「村長よろしくお願いします。体は大丈夫ですか?私が次女の所へ行って来ます。」
ハンナの母が言った。
「うむ。まだ行ける。よし分かった。では行くぞ。」
そう言うとまたスーっと消えて行った。
「きゃあ!お母様!?」
次女はブティックで旦那様とお買い物中だった。
「どうされたんですか!?お義母様!今、いきなり現れましたよね!?」
旦那様が目をパチパチさせた。
「お母様、どうされたの!?何かあったのね!」
次女は何かただ事ではない事にすぐ気が付いた。
「うん。いきなりゴメンね。実は…」
母は今までの流れを次女と旦那に話をした。
「不死鳥に触れられた人間?ハンナちゃんが?」
旦那様は理解するのに少し時間がかかった。
「それでハンナは無事なの?」
次女も長女同様ハンナの事をとても心配した。
「ええ、けれど助けに行かなくてはこのままだと皇帝に何をされるか分からないわ。」
母は深刻な表情を浮かべている。
「お義母さん。私は出来る限りの援助します。不死鳥に触れられた人間は最も神に近い存在だとお爺様に聞いた事があります。どうかハンナちゃんを助けてあげてください。」
「そうよお母様。私達に出来る事があるなら何でもするから。ハンナに会いたいわ。」
次女が涙ぐんでいる。旦那は付き人からカバンを貰うとその中から大金を母に渡した。
「どうもありがとうございます。もう、なんとお礼を言って良いのか。」
母はこらえきれずに涙をボロボロとこぼした。
「私達はいつでもサラ家の味方ですし家族です。当たり前の事をしたまでですよ。」
次女の旦那が優しく言った。母と村長は泣きながら何度もお礼を言いながら消えて行った。
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