第19話 繋がる相関図

「リテはどこに居るの?リテはいつもお姉ちゃんのエフェと一緒だったのに、お姉ちゃんが事故で亡くなるなんて…あの子は一人で寂しがってるわ。」

そう言うと奥様は手で顔を覆いシクシクと泣き始めた。

「奥様、取り合えずお部屋に戻りましょう。」

メドックがそう言って奥様を部屋から連れ出した。

「申し訳ない。取り乱してしまって。」

村長は明らかに動揺している。

「申し訳ありません。私達が何か気に障る様な事でも言ってしまったのではないでしょうか…」

サーブルが深々と頭を下げた。

「いいえ。貴方達は何も悪くない。まさかその名前が出るとは思っても居なかったよ。リテは私達の娘だ。」

その告白にハンナ達は衝撃を受けてしまった。

「リテとリテの姉エフェをデグラスが連れて行ってしまったんだよ。姉のエフェは当時想いを寄せている方が居るからとお断りしたのだが聞いてもらえず、文通をしていたがそれっきりになってしまいとても悲しんでいた。リテなんてまだ七歳だった。娘たちが出て行ってから妻は声が出なくなった。そしてリテの姉のエフェが事故で死んだと聞かされて遺骨だけでも欲しいとお願いしても聞き入れてもらえなかった。それに加え半年程前にリテが流行り病で死んだと言われ、妻は完全に壊れたんだ。」

「え!?」

ハンナ達は声が揃った。

「リテ様はお亡くなりにはなられてないです!私は騎士団長として毎日見回りに行ってましたがリテ様は私が庭師になる前日も生きておられました。」

サーブルが少しムキになっている。

「それに流行り病で亡くなったなどの情報は城では聞かなかったので違うと思います!」エクラも必死に訴えた。

「……リテ様が村長のお子様ならばエトワール皇子は孫になるのですか?」

エクラがハッと気付いて村長に尋ねた。

「ああ、エトワール。そうだ。生れてからまだ間もない時の写真を今も大切に持ってる。エフェの小さい頃にそっくりだったよ。」

村長はそう言うと目を細めた。

「村長、私達はリテ様とエトワール皇子の事を助けに行きたいと思います。必ず連れて帰って来ますのでどうかお力をお貸しください。」

ハンナは村長の手を取った。村長は涙を流しながら喜んだ。

「もちろんです。私達がやれる事はなんでもやりますので。お嬢様達が現れた時に、妻が急にしゃべり出して何が起きたのか思っていたら、リテの傍にいたのですね。妻はそれを感じ取っていたんだ。」

そう言うともう村長は何も話せない程に号泣した。ハンナの両親も子供の事を想う村長の姿に感銘してもらい泣きをした。

「村長、もう一つお伺いします。村長に宿の件を依頼したのはどんな方ですか?」

ハンナは泣いている村長に聞くのを躊躇ったがそんな悠長な事を言ってられない。

「ああ、あの方の事はよく覚えている。帽子を被って居たが綺麗な銀色の髪が見えておった。目はブルーで美しいがその瞳の奥は冷たい印象だった。背格好はちょうどサーブルさんの様だったぞ。」

村長が話した人物像にハンナ達三人はピンと来た。

「お嬢様。それってもしかして…」

「ええ、あの方かもしれないわ。」

「ロスタル侯爵でしょうか?」

サーブルがその名前を出すと皆で頷いた。

「三人の知り合いだったのかね?そうだとしたら尚更、奇妙な方だな。」

村長は首を傾げていた。

「村長はなぜその方が魔力がある事に気が付いたのですか?」

「私らも魔力があるからその位感じ取れるよ。」

村長は少し誇らしげだった。

「どんな魔力かはわかりますか?」

「分かるぞ。あの方の魔力は“呼び寄せ”の力じゃ。」

「呼び寄せですか?」

「そうじゃ。無くした宝石、行方不明になった者、人の心でさえも自分の所へ呼び寄せる事が出来る。あの不死鳥も呼ぶことが出来るぞ。使い方を間違えるととても怖い力でもあるからな。」

「呼び寄せの力…。人の心と言うのはどういう事なのでしょう。」

「簡単に言うと惚れるという事じゃ。男でも女でも自分が有利になるように相手の心を自分の物にする力だ。」

ああ。貴族達がロスタル侯爵に異様に好意を持っている様に見えたのはその力のせいなのか。とハンナは納得した。

「村長、ありがとうございます。あのロスタル侯爵は少し注意しておく事にしますわ。」

ハンナは村長の話を聞きロスタル侯爵への対応を決めた。

「それが良い。注意している事に越したことはないよ。」


その日の晩は皆でリテ様を助ける作戦を練る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る