第15話 皇帝は必ず追って来る
コットが呪術でハンナ達の居場所を探すのに手こずってる間、ハンナ達は順調に来たので、もう間もなくでハンナの家に到着するところだった。
「もう少しだわ。もう村が見えて来てる。この調子だと夕方位には付きそうね。」
ハンナが指を差した。
「皇帝は気付かれたのでしょうかね?余りにも順調で少し怖いですね。」
「そうですね。居場所の特定は簡単には行かないでしょうけど、皇帝なら何かしら手を打って来ると思うんですが。」
サーブルも順調な事に少し不安を抱いてた。
「さあ、心配をするよりも先を急ぎましょう!私の家に着いたらお風呂に入って美味しいご飯を食べましょう!」
ハンナは弱気になってる二人を励ました。エクラとサーブルはそのハンナの言葉を励みに急いで歩いた。
「着いたわ!ここよ!お父様!お母様!」
ハンナは玄関の扉を開けた。
「ハンナなのか!?」
ほんの少し見ないうちに父と母はやつれていた。
「どうしたの?こんなにやつれて。」
ハンナは心配そうに尋ねた。
「ハンナ?本当にハンナなのか?とても美しくなったなあ。やはり、これは何という事だ。」
両親は涙を流してハンナの頬に触れた。
「お父様、お母様皇帝の所から逃げて来てしまいました。ごめんなさい。」
「いいんだ!すまんな、ハンナ。お前には苦労をかけてしまった。ハンナが嫁いで行ってから私達はずっと後悔していたんだ。」
そう言って、父がハンナを抱きしめた。
「こんな事になるなら全てを言っておくべきだったわ。でもハンナにとって危険な事でもあるから言えなかったの。」
母は泣いていた。
「いいんです。今、こやって会えた事が嬉しいわ。あ、ごめんなさい、紹介が遅れてしまったわ。こちら、エクラとサーブルよ。私の信頼できる仲間。」
「初めまして、エクラと申します。」
「初めまして。サーブルです。」
「どうも。初めまして。ハンナと一緒に帰って来てくれてありがとう。何もないがゆっくりしてくれ。」
父はそう言うと一人一人を抱きしめた。
「取り合えず、お茶にしましょう。あと大したものは出来ないけど何か作るわね。」
そう言ってハンナの母がとっておきのダージリンティーを用意しながら、パンケーキを焼いてくれた。三人は朝食すらもまだだったので嬉しかった。
「どう?お口に合うかしら?」
ハンナの母が心配そうに尋ねた。
「とても美味しいです!いくらでも入ります。」
サーブルが勢いよくパンケーキを食べた。
「ところで、さっきの話の続きなんだけど私のこの容姿の変化は不死鳥の力なのね?」
ハンナがダージリンティーを飲みながら質問した。父と母は顔を見合わせた。
「ああ。恐らくそうだ。」
父は少し難しい顔をしている。
「恐らくという事はどういう事なの?」
「ハンナは父さんと馬に乗って、彷徨いの谷の近くの泉に剣の練習をしていた時に不死鳥を見たのを覚えているか?」
「はい。覚えています。」
「その時に、もっと小さい時に見た不死鳥の事を口にしたのは覚えているかい?」
「はい。それも覚えています。けどそれはお父様に言うなと口止めされました。」
「ハンナ。実はそれはハンナが生れてわずか三週間の時の事なんだよ。」
「ええ!?」
その父の言葉に三人とも驚いてしまった。
「驚くのは無理もない。私達だって初めは信じられなかったんだ。けれどハンナはその不死鳥の特徴もどこで見たのかも覚えていたんだよ。」
「私が覚えているのは私のベットの中に一緒に尾が紫色の小さな鳥が居た事です。」
「ハンナの方から楽しそうな笑い声が聞こえてくるので見に行くと、ハンナに懐いてすり寄っているひな鳥が居たんだよ。最初は何の鳥か分からなかったんだが、その日の夜にハンナとひな鳥が寝ている部屋の窓の外に、あの大きく美しい真っ白な不死鳥が居たのだ。」
父はダージリンを一口飲んで話を続けた。
「その大きな不死鳥が羽を広げるとひな鳥が目を覚ましたんだ。ひな鳥はその不死鳥を見るとジタバタと窓の傍へ行き母鳥の近くへ行こうとしたので、私が窓を開けてあげると母親の不死鳥はひな鳥を背中に乗せ、何度もお礼を言うかの様に振り返り飛んで行ったんだ。」
「それで不死鳥に触れられたハンナお嬢様は、怪我を治す不思議な力を手に入れたという事なんですね。」
父の話を聞くとエクラが納得した。
「けれど、なぜその不死鳥に触れられてから何年も経っていきなり力が生れたのでしょうか。不死鳥の力とはそういう物なのでしょうか?」
サーブルが父に質問した。
「推測だが、まだひな鳥だった不死鳥の力はそんなに強くはないのかもしれない。ハンナに与えるだけの力がまだ備わって居なかったのではないかと思うのだが。」
そう言いながら父は分厚い本を出してきた。その書物に書かれている地図を指さしながら話し始めた。
「これはね、私の曾おじい様が不死鳥について書き記した書物なんだ。色んな場所で不死鳥について調べていて、あのハンナと不死鳥を見た辺りが、一番、不死鳥の巣に近いのではないかという事を突き止めたらしい。」
「そうなのね。これだけ不死鳥について聞くと、皇帝はやはり私の力を目当てに結婚を申し込んで来た事が分かったわ。」
ハンナは皆の顔を見回した。
「ハンナ、本当にお母さん達が悪かったわ。もっと皇帝に堂々と断るべきだったのよ。」
「やめてください。お母様。そんなことしたらあの皇帝はどんな卑怯な手を使ってくるかも分からないわ。この村の皆だって危険な目に合ってしまうでしょう。」
ハンナは母の手をとった。その時サーブルが真剣な顔で話し始めた。
「あの、きっと皇帝はハンナお嬢様の事は諦めないと思います。ありとあらゆる手段を使い探し出すでしょうし、今のままだとお父様達の命も危ないかと思われます。」
エクラもサーブルの意見には激しく同意した。
「私も皇帝は非道なお方だと思います。ここに私達が来てしまった以上、皆でどこかに身を隠すのがいいのではないかと思うのですが。コット様もいらっしゃるので何か変な呪術をかけられても怖いですので。」
皇帝をよく知る二人がそう言うならここはもう危険なのだろう。
「けれど、どこに行けばいいのか…。だが私達がここに居ると村の皆も危ない目に会うに違いない。」
父は困って頭を掻いた。
「ねえ、貴方。あの底なしの沼の近くにある村はどうなの?昔、曾おじい様が行ったことがあるとか言ってたじゃない。それに呪術を使う方も居るのなら尚更いいのではないですか?」
母が父に提案をした。
「ああ。あそこかあ。だがあそこの人々は簡単にはよそ者を入れてはくれないぞ。」
父はもっと頭を掻いた。
「お父様、お母様、そこはどこなのですか?もうここは取り合えず一度離れた方がいいと思います。」
ハンナは二人を見つめた。
「そうだな。私達の考えだけではもう何も出来ないな。その村は“老いの村”といって身寄りのないちょっと偏屈な老人たちの村なんだよ。呪術使いも何故かは分からないが、あの老いの村では力を発揮出来ないんだ。けど私達の事も受け入れてくれるかは難しいがね。」
「受け入れられる条件とは何でしょうか?」
ハンナはどこにも行く当てがなくなるのではないかと言う不安が膨らみ始めた。
「それは当人達にしか分からない。受け入れられなかったらまたここに戻るしか方法はないぞ。」
父は難しい顔をしていた。
「分かりました。何もせずにここに居るよりもとにかくその村へ行きましょう。もし受け入れられないならばその時にまた考えましょう。」
「ハンナお嬢様。私もお嬢様に付いて行きますわ。」
エクラがハンナの手を取った。
「ハンナ。お前は、いつの間にか強く素敵な女性になったんだね。いい仲間にも恵まれて父さんの誇りだよ。」
「母さんも嬉しいわ。ハンナの言う通り、とにかく行動するのみね。」
「私も皆さんの護衛に尽くしたいと思います。」
サーブルも左胸に手を当て深く一礼した。
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