第11話 皇帝の企み

「なぜハンナは挨拶に来ない。様子を見て来るのだ。」

ハンナ達が夜中に城を出て異変に気付いたのは夕方を過ぎてからだった。皇帝へ挨拶に来ないので付き人に様子を見に行かせた。


「どういう事だ!なぜ居ない事に気付かないのだ!?ハンナ達を見なかったのか!?」

皇帝は怒りながら付き人に聞いた。

「あ、あの、一度来たのですが皇帝がまだお休み中だったので、引き取っていただきました。」

「私はもう五時前から起きておったが、ハンナ達はそれより前に来たというのか?」

付き人はまずいという顔をした。

「申し訳ありません。しかしそんな急いでいる様子でもなかったのでまた来ると言っていました。」

皇帝は怒りで血管が浮き出て来た。

「なぜお前が決めるんだ?それにハンナの部屋のメイキングをするメイドも呼べ。」

メイド達はコットの黒い魔法のクッキーの力がまだ切れていないのでハンナ達の部屋なんて掃除をしなかった。それでダミーの人形に気付かずにそのままハンナ達の逃亡に気付かなかった。

「誰がハンナの部屋の掃除をサボっていいと言ったのか。」

皇帝は静かだけど明らかに怒っている目つきでメイド達を見た。

「そ、そ、それは、ハンナ妃が寝てるからしなくてもいいのかと……」

「ほう。私が寝てるときは勝手に入って来て色々やるのに、ハンナには気を遣うんだな。」

皇帝は肘掛に指をコツコツと叩きつけた。

「それは違います!お許しください!」

メイド達は土下座をした。

「いいか、よく聞け。ハンナはこの私が格下の田舎の貴族に頭を下げて連れて来たのだ。お前たちが邪険にしていい相手ではなかったんだ。このままハンナが見つからないと我が国の損害になるぞ。これは処罰の対象になるからな。」

皇帝は拳でバンッと肘掛を叩いた。メイドと付き人は鼻水を垂らしながら泣いている。

「おい、この者達を牢に連れて行け。処刑の日取りを決める。」

その言葉にワァッと皆、泣き出した。腰が抜けて歩けない者も居る。皇帝は顔色一つ変えずに近くに居た兵士を呼んだ。

「コットを呼べ。」

「はっ。承知致しました。」

騎士が直ぐにコットを呼びに行った。皇帝は黒幕が誰なのかは気付いていた。



「コットよ。ハンナが居なくなった。メイドや付き人に呪術を掛けたのはおまえだろう。呪術を掛けられた人間は何となく気分が悪いから明日処刑にする。」

皇帝はコットを膝に乗せた。

「ちょっと驚かしてやろうとしただけなのに逃げ出すなんて弱い子ね。皇帝も相変わらず潔癖なのね。何も処刑にすることはないのに。」

「あんまりハンナを虐めないでくれ。けれどあんな綺麗な女になるなら一度くらい味見してみたいもんだ。」

「ちょっと、私だけじゃ不満なの?」

「お前も他で色々やっとるだろう。」

皇帝はそう言うとコットのスカートの中に手を入れようとした。

「もう、気が早いのね。」

そう言うとコットは皇帝の膝からスッと降りた。

「今夜、呪術であの子たちの居場所を探すわ。」

コットはそう言うと部屋を出て行った。皇帝は眉間に皺をよせ考え込んだ。


「おのれコットの奴、勝手な真似をしおって。見つけ出して早くハンナの血を呑まなければ…。」


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