第4話 最悪のパレード

パレードの日は朝から皆がバタバタしていて、ハンナは一人だけ取り残されてる気分になった。エクラも準備に追われて中々、捕まらなかった。

パレードの為に馬車まで行くとアンベスが待っていた。ハンナはアンベスの顔を見ると余計に憂鬱な気分になった。馬車の周りには貴族たちも居るため、仲のいい振りをしなければならない。

「ハンナ、行くぞ。」

馬車に乗る時に支える為、アンベスはハンナの手を取ろうと差し出した。ハンナは今までの態度を思い出すとゾッとしてアンベスの手を取らずに馬車に乗った。

「クスクス…」

それを見ていた貴族達が笑い陰でゴニョニョ何か言ってる様だ。アンベスは顔を真っ赤にしてハンナの後に次いで馬車に乗った。

「おい!仲のいい振りをしろと言っただろ!お前は頭も悪いのか!?」

鼻息をゴウゴウと立てながら怒ってるアンベスを見ると余計に興ざめしてしまう。

「これは失礼しました。普段の態度が余りにも酷いので、もうそんな気はないかと思ってしまいましたわ。」

無表情で言い返すとアンベスは手袋を取るとハンナに投げつけた。

「殴らなかっただけでもありがたく思え。」

そう言うと偉そうにふんぞり返って足を組んだ。ハンナはここに剣があればこのバカ男を切ることが出来たのにと歯を食いしばってグッと堪えた。



パレードの出発地点まで来ると多くの人が集まっていることに驚いた。ハンナが住んでいた田舎とは大違いだ。

「何だあの少年の様な令嬢は。」

「ドレスがサイズ合ってないんじゃない?なぜあんなブカブカなの?」

護衛やメイドがヒソヒソと話をしていた。アンベスはプライドが高いので、ハンナを連れてるせいで自分の評価が下がる様で嫌だった。

「お前を見れば見る程にイライラする。視界に入ってくるな。」

アンベスはそう言うと誰にも見えない様にハンナの腕を抓った。

「痛い!」

ハンナはアンベスを睨んだ。二人は険悪な雰囲気でパレード用の馬車まで歩いた。

「あら、ハンナ。素敵なドレスね。」

声をかけて来たのはコットだった。コットの方を見るとハンナは絶句した。二人のドレスがほとんど同じだったのだ。ハンナのドレスは光沢のある白のシルクの生地のドレスで、コットのドレスも白のシルク地だ。胸元などの形が若干違う程度でほとんど一緒だった。

「コット様…、そのドレスは…」

ハンナはどう解釈していいか分からなかった。結婚式ではないものの一応主賓と色を被らせて来るとは思わなかった。それに周りの人は誰も注意しなかったのだろうか。どれだけハンナは馬鹿にされているのだろうと悔しくなった。

「いいでしょ。このドレス。国民の前に出る時はシンプルな物にしなくてはいけないでしょ。」

そう言ってニコニコと笑いながらハンナの頭のから足の先まで品定めするかのように見た。

「素敵なドレスですね。これは私が衣装屋に一からオーダーして作らせた物なんです。まさかそのドレスと似ているドレスがあるとは思いませんでした。そう言えば私達がドレスをオーダーしている時に部屋にいらっしゃいましたよね?羨ましくなっちゃいました?」

ハンナもニッコリと笑った。コットがムッとした顔を見せた。

「コット!来てたのか?」

後ろから嫌な奴の声が聞こえて来た。

「アンベス、今日は貴方達の馬車の後から皇帝と付いて行くわ。」

長い髪をファサッとかき上げポテッとした唇をきゅっと突き出し上目遣いにアンベスを見た。

「コット。君が隣に居てくれたら良かったのに。ドレスもとても綺麗だ。どこかの男みたいな女とは全く違うな。」

わざと聞こえる様に話している。

「アンベス。ダメよそんな事言っちゃ。私がハンナのドレスのデザインを盗んだとか言われちゃうわ。」

コットはアンベスの陰からこちらをチラリと覗いた。

「本当にあいつはどこまでも浅はかな奴だ。コットがそんな事する訳がないではないか。こんなに美しく着こなしているし、このドレスもこちらの方が嬉しいだろう。」

ハンナは言われ放題言われているが、確かにドレスに関してはコットが何倍も綺麗に着こなしていたので尚更、悔しいし悲しかった。


「それでは、皇帝も到着されましたのでパレードを始めます。どうぞこちらに。」

護衛にそう言われてパレード用の馬車に乗り込んだ。

「それでは、出発いたします。」

その合図とともにゲートが開き馬車が走り出した。

「わーーーーー!」

歓声を直に聞くとやはり嬉しいものだ。ハンナとアンベスは偽りの夫婦を演じながらにこやかに手を振った。

ハンナ達の馬車が通り、皇帝とコットの馬車が観衆の前を通ると歓声がハンナ達の時の倍になった。

「聖女様――――!!」

「聖女様こちらを向いてくださいませーーー!」

そのほとんどは聖女コットへの歓声だった。コットは飛び切りの笑顔で手を振っていた。


「コットは聖女に任命されて半年程なのに国民からの信頼は厚いのだ。神に仕える者として美しく清らかで聡明だ。そなたとは大違いだな。」

「そうでございますか。けれど、そんな大違いの私を妃としてお選びになったのはこの国の皇帝であり貴方のお父上でございます。そしてそんな大違いな人の旦那様はご自分です。」

観衆にはニコニコしながら手を振って居るが二人は険悪なままだ。


終始コットの声援が絶えないパレードにいい加減うんざりしてきた。それにここの国民は笑顔の仮面を張り付けた様な感じで何となく気味が悪かった。アンベスはこちらを一度も見ずに国民へのお披露目パレードは終了した。


疲れを癒す間もなく次は貴族達のパーティー会場へ向かった。馬車の中では二人は相変わらず険悪な雰囲気なままだ。会場に着くとエクラが直ぐに迎えに来てくれた。

「ハンナ妃!メイクなど直しましょう。どうぞこちらに。」

ハンナの手を引きふと後ろのコットを見てエクラも絶句した。

「あ、あの、ハンナ妃…あのドレスは一体…」

もはや開いた口が塞がらないといった感じだ。

「エクラ、言いたいことは分かるわ。ただ、今は我慢しましょ。」

ハンナも怒りで言いたいことはたくさんあるがグッと堪えた。


「どうしましょう。ドレス変えますか?」

「替えのドレスはあるの?」

「はい、何着かはご用意がありますがパーティー用だと少し子供っぽいかもしれません。」

「そうなのね。それではこのドレスで行くしかないわね。宝飾品を少し豪華にして、メイクを濃い目にしますわ。そうするとまだ少しは見れますかね?」

「ハンナ妃!そんな言い方はよくありません。ハンナ妃は十分に美しいです。髪も結い直しますので。」

「エクラ。ありがとう。嬉しいわ。」

「そうです。どうか笑っていて下さい。それはそうとコット様があんな非常識な事をするなんて思っていませんでしたわ。」

エクラはプリプリ怒りながらハンナの髪をとかしている。

「けれど、国民からの支持はとても凄かったわ。歓声が絶え間なく響いていたの。」

「ああ、それは皇帝の戦略です。半年程前に聖女を受け継がれた時に皇帝が今までにない位大々的に国民へアピールをしたのです。神に一番近い存在とまで言われてました。」

「そんな事があったのね。けれど前任の聖女様はなぜお辞めになったの?」

「それが…エトワール皇子の病気は聖女様がもたらした疫病が原因という事になったのです。」

「ええ!?そうなの!?それはいくら何でも飛躍しすぎなのでは?」

「前任の聖女様はリテ様と言って、孤児院や病気の方を助ける為に人一倍、努力されてました。余り目立ちたくはないようでしたので、国民の前に出る方ではなかったのです。流行り病の子供を看病してその後直ぐにエトワール皇子が倒れられたのでリテ様からの感染が疑われたと聞きました。」

「そんな。流行り病だとしたら医者が気付くはずではないの?」

「はい。私もそう思いましたが皇帝は無理やりに聖女様を交代させたのです。コット様は第一皇子の婚約者でもあったみたいなので仕方なかったのかと。」

「でもそれは酷いわ。そのリテ様は大丈夫なのかしら?」

「はあ、隔離されてると聞きましたが、恐らく隔離と言う名の投獄だと思います。神に仕える者を投獄などして罰が当たりますわ。」

「そうなのね。それであのコット様が聖女になったという事なのね。」

「はい。そういう事なのです。」


皇帝がハンナの元に結婚を申し込んで来たのも半年程前。エトワール皇子が病に倒れたのも半年前。コットが聖女になったのも半年前。

あんな田舎の片隅に住んでる色気も何もない貴族の令嬢が選ばれた理由は何だったのだろう。全てただの偶然の一致なのだろうか。



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