第3話 誰の為のドレス
「ハンナ妃。このドレスはいかがですか?」
アンベスがドレス選びに来ないので、エクラと国民へのお披露目のパレードで着るためのドレスを選んでいた。
「そうですねぇ、もっとシンプルでもいいのですが。」
ハンナは余り飾りのついたドレスは好まなかった。
「ああ、お体が華奢なので、多少飾りのついた物でないと貧相に見えてしまいます。」
衣装屋の主人は申し訳なさそうに答えた。ガリガリの体系で少年の様な風貌にはシンプルなドレスを合わせるのは少し難しいみたいだ。
「そうですか。それならばお任せをします。なるべくシンプルなものがいいです。」
「皇子の好みも聞いておきましょう。」
衣装屋にそう提案されたが、ハンナはまた傷付く事を言われそうで嫌だった。
「いいえ、皇子はハンナ妃に任せると仰ってたのでここだけで決めていいかと思います。
エクラがすかさずフォローしてくれた。エクラは本当に頼りになる侍女だ。
その時に勢いよくノックもなくドアが開いた。
「エクラ、ちょっと席を外してくれる?」
聖女のコットがいきなり部屋に入って来た。
「かしこまりました。」
エクラは不満げだがそう言うと部屋を出て行った。
「どういったご用件でしょうか?」
ハンナは凄く嫌な気持ちになった。
「そんな怖い顔しないでください。私達は姉妹も同然ではないですか。これから仲良くしましょう。」
純粋なハンナは案外悪い人ではないのか?という思いが一瞬頭を過った。
「まだここに来てそんなに日も経ってないので緊張してます。気に障ったら申し訳ないです。」
取り合えず当たり障りのない事を返した。
「ねえハンナ。アンベス皇子には抱いてもらえた?」
ニヤニヤしながら不躾な質問をするコットに、悪意が無いのではと思ったのは間違いだったと気づいた。衣装屋も益々、気まずそうにしている。
「申し訳ありません。その様なお話をするのは好きではありません。」
この聖女は全てを知っていてハンナに屈辱を味わわせたくて質問して来た様だ。
「ふーん。そうなのね。まあ、これからもよろしく“ご令息様”。」
聞き間違いだろうか?ハンナは耳を疑った。コットはクスっと笑って部屋を出て行った。それとほぼ同時にエクラが戻って来た。
「大丈夫でした!?嫌な事言われませんでした!?」
エクラは心配してくれた。
「大丈夫よ。けれど何がしたかったのかは分からないわ。」
「気になさらない方がいいですわ。」
「そうね。」
「ハンナ妃。私はあの方を信用するのは少々怖い事かと思います。適度な距離で接してくださいませ。」
エクラに言われた事はハンナの中でもそう思ってた事だった。
その日の夜ハンナは考えた。
「なぜ皇帝は私を選んだのだろうか。お姉さま二人は綺麗で色っぽく男性にもモテていたが私は昔から男の子に間違われるし、お父様と剣の打ち合いをする様な子で、今もドレスに着られてる感が否めない。髪もこれと言ってお手入れもしてこなかった。それなのにまさか皇子の妃になるなんて何が起きてるの?」
ハンナはまだ、平凡な田舎の貴族の令嬢で居たかった。
「ハンナ。ここの暮らしには慣れたかい?」
デグラス皇帝はアンベスとは違い優しく接してくれる。ただその優しさはなぜが胡散臭い。
「はい。エクラが献身的にお世話してくれるお陰でとてもいい暮らしが出来ております。」
「そうか。それは良かった。明日なんだが国民へそなたのお披露目のパレードを予定しておる。まあ、国民前ではドレスはなるべくシンプルなものにして欲しい。その後の貴族のパーティーに着る物は派手でも構わない。」
「ありがとうございます。ティアラなどの宝飾品がとても高価な物ですのでドレスはパレード用のシンプルなドレス一着で十分です。」
「そうか。他に要望があれば遠慮せずに何でも言って良いんだぞ。実の父親だと思ってくれたらいい。」
その皇帝の優しさはやはり不気味な程だ。
「私には勿体ないお言葉です。ありがとうございます。」
皇帝に挨拶をして部屋を出るとエクラが待っていてくれた。
「ハンナ妃。ドレスが届きましたので部屋でご試着なさいませんか。」
「今、皇帝ともドレスの話をしておりました。シンプルな物をという事です。」
「それなら、あのドレスで大丈夫ですね。」
「エクラ、ありがとう。私、エクラが居なかったらここの生活に耐えれていたか分からなかったわ。」
「そんな!私はハンナ妃とお会いした時から素敵な方が来てくれたと嬉しかったんです。私はこのお屋敷では孤立しております。そのせいで本当はあと二人ほど侍女が居てもいいのですが、アンベス皇子が許して下さらなくて。」
「いいのよ。気にしないで、エクラが大変になってしまうけど私は貴方一人でいいわ。」
侍女の人数さえも制限してるなんて本当に器の小さい男だとハンナはムカムカした。明日のパレードは気が重い。その後のパーティーも全く行きたいと思わない。考えれば考える程に憂鬱になってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます