(4)

「坂本さん」


帰りのホームルームが終わり、今日は掃除当番でもありませんでしたので、配られたプリントをカバンにしまって帰ろうとしたところ、担任の先生に呼び止められました。


「ちょっといいかしら?」


これでも学級委員長ですから、たまにはそんなこともありますので、特段気にすることもなく先生のあとをついて行くと、人気ひとけのない相談室に連れていかれました。誰にも聞かれたくないような折りいった話をするときによく用いられるのです。


「実は杉本さんのことなんだけど――」


私はドキッとしました。もしかして杉本さんが私のことを学校に訴えたのか、それとも、あのことを口止めした生徒が先生に告げ口したのか。私は何を言われるかわからず身構えました。


「最近、よく面倒を見てくれてるみたいね」


なんだ、そんなことですか。私はホッと胸をなで下ろしました。ええ、面倒は見ていますとも。もっとも、先生が言うのとは違う意味かもしれませんが。


「はい、ちょっと心配でしたので、話し相手になったり、宿題を見てあげたりしています」


「助かるわ。さすが学級委員長ね」


「いえ、とんでもありません」


私に無理やり学級委員長を押しつけておいてよく言うわと思いましたが、それでも先生に褒められて悪い気はしません。


「杉本さんから家族のことについて何か聞いてる?」


「いいえ、何も」


「そう。実は杉本さんの家庭はちょっと問題があってね。できればいろいろ相談に乗ってほしいの」


「はい、私でよければ」


「ありがとう。もし杉本さんのことで何かあったら私に教えてちょうだい」


「わかりました」


話はそれだけで、私は先生を残して相談室をあとにしました。長くなるのかと思いきや、ものの5分で終わり一安心です。私ははやる気持ちを抑えながら、急いで家に帰りました。制服から下着まですべて脱ぎ捨て、いそいそとお気に入りの新しい下着を付けて私服に着替えます。ああ、この日が来るのをどれほど待ったことでしょう! 会えなかった土日は食欲もなく、何をするのもむなしくて、ため息ばかりついていました。


チャイムが鳴りました。私はそれを聞いただけで胸が高鳴り、すぐさま玄関に駆けつけました。ドアを開けると、そこには杉本さんが恥ずかしそうに立っていて、潤んだ瞳で私を仰ぎ見るのです。私は静かにドアを閉め、鍵をかけました。

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かごの中の鳥 来宮サキ @saki_arai

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