第2話 十年の命

「メル。君は……17歳までしか生きられない運命にある」


「え?」



 お父様の言う意味がよくわからずに私は言葉を迷っていた。

 他のみんなも私を見たり視線を逸らしたりはするのに、一切声をかけてくれない。……どうしたら良いのかわからないと言った顔をしている。多分私も同じだ。

 てっきりお父様の先が長くないと思い込んでいたけれど……先が長くないのは私かもしれないってこと……?



「古くからシェルヴァン家には強い呪いがある。その呪いの所為で……この家に生まれた女性は、18歳を迎えられない」



「え……?」

「回避しようとしても、令嬢は予言された内容のままに命を落とす。これを生き延びたものは歴史上いないんだ」


 お父様の話をよく噛み砕いていく。シェルヴァン家は私の家。この家に生まれた女性。それは私、メルビエーナのこと。そして呪いによってシェルヴァン家の女性である私は、18歳を迎えられない。つまりあと十年以内に……私は呪いによって死ぬ。


「呪いの通りに行けば、君は十年後に命を落とすだろう」

「そん、な」




 頭が真っ白になった。




 他のみんなの表情を見る余裕はない。その他にもお父様が何か言っていらしたけれど、何も耳に入らない。



「……メル。これまで何も対策を見出せず、無力なままこんな話を聞かせてしまい……申し訳ない」


「…………」

「一度お部屋に戻ったほうがいいわね……」


 かろうじて聞き取れたのは最後の謝罪だけ。私は侍女のサリーに連れられて、みんながいた部屋を出た。





 気がついたら、ベッドに座っていた。身体が重くて気持ちも大きく沈んでいる。でも、眠れそうにはない。


「サリー……」

「はい、お嬢様」

「貴方も先ほどの話は聞いていた?」


 サリーは眉をハの字に下げて苦しそうに目を伏せる。聞いていたことは顔を見ればわかった。先ほどまでお父様たちの顔は全く見れなかったのに、不思議とサリーのことは見ていられる。その落ち着いた声をもっと聞いていたくなる。


「さっきの話、最初の衝撃が強くてほとんど聞けなかったの。改めて話してくれないかしら」

「……よろしいのですか?」

「ええ。今、貴方から聞きたいの」


 サリーは頭の回転が早くとても気が利く。だから”よろしいでのですか”のたった一言にもいろいろな意味が含まれていることがわかった。父を含めた家族からの言葉でなくて良いのか、今の重苦しい心で耐えられるのか、と聞いてくれたのだろう。

 私の様子を見て、彼女も自身の気合を入れ直してくれたらしい。苦しそうな表情は既になかった。



「ではお話しいたします。旦那様がお話しになった、シェルヴァン家の令嬢の運命について」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る