ネタキャラは死なないと聞きましたので!

芦屋 瞭銘

第一章 シェルヴァン家が辿る運命

第1話 父の望みは叶わない


「おはようメルビエーナ。こちらに座りなさい」

「おはよう……ございます……?」


 幸せな朝のはずだった。昨日私は7歳になり、盛大に家族や使用人たちに祝ってもらったのだから。美味しい食事と食べきれないほど大きなケーキ。両手に収まりきらないぐらいたくさんのプレゼントに埋もれて幸せを纏ったまま眠りに落ちた、そんな翌朝のことだった。


 テーブルを囲むソファにはお父様とお母様。フラウジードお兄様と弟のグーゼル。我がシェルヴァン家の家族全員が勢揃いしていた。飲みかけの紅茶からは少しだけの湯気が立っており、みんなは少し前からそこにいたのだとわかる。

 とても神妙な面持ちで席に促され、私は一気に緊張しながらソファに腰掛けた。これから始める何かを察知して体が固まる。


「メルビエーナに……大事な話がある」

「な、なんでしょうか……」


 一体なんだというのだろう? 私が何かをしてしまった?


 でも昨日から今日にかけての自分の行動を振り返っても特に思い当たる失敗はない。しかしながら、このような何も思い当たらないことこそが重大な失態であったりするものだと、前にお兄様は言っていた。

 私も何か知らぬ間に、怒られてしまうような何かをしてしまったのかもしれない。先に謝ったほうが良いかと口を開きかけたが、お父様の顔が切ない表情へと変わっているのを見てそれを閉じる。もうしかしたら私が何かをやらかしてしまったのではない、のかもしれない。ひとまず話を聞かなくてはとお父様をじっと見つめた。


「メルは昨日7歳になったね。我が子の成長を父としてすごく嬉しく思っているよ。ずっと……この先も君がどんなレディになるのか見守っていきたい」

「は、はい……」

「しかし……」


 そこで言葉が途切れる。なんだというの、お父様。

 ずっと変わらず見守ってくださればいいじゃない。お父様の娘であることはどうなっても変わらないのだから。迷うようにお父様は口を開き、軽く咳払いをした。


「私の願いはたった数年しか叶わないかもしれない……」

「……ど、どういうこと、ですか」


 お父様の願い……先ほど言っていらした”この先の私がどんなレディになるのか見守っていきたい”、ということかしら。それが数年しか叶わない?

 ……まさか。



 お父様、ご病気か何かでもう先が長くないのかしら……!?



 そうなればこの家族総出での重い空気も納得がいく。先ほどのお父様の切ない表情も自身が数年でいなくなることで、私たちを残してしまうのをお心苦しく思っているから。心臓がギュッと苦しくなってしまった。


 お父様は今にも泣きそうな顔でこちらを見つめている。ええ、ええ。大事にここまで育てていただきました。自慢のお父様ですわ。元気に見えていたけれど、相当な無理をされていたのね。



「メル。君は……17歳までしか生きられない運命にある」



「え?」


 しかし、お父様が口にした言葉は、私に予想の斜め上から強い衝撃を与えた。

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