第2話

唐揚げがきた。

テーブルに置かれてから、八木橋が話し始める。


「さあ、たべてね。仕事の話だけど、俺とやってくれるなら全部任せてくれていいよ」


ぎょっとしてしまう。やるというのは最後までするということなのだろうか。


「だから、はっきり言って君がやるかどうかでこの話も長ったらしく説明しなくていいってことなんだよね。どっちをとる?俺とやってすぐ仕事をやってもらうか?長ったらしいやりとりをして、長ったらしく確認しながら2人でやるか?俺はどっちでもいいけど、長ったらしいのはすぐ飽きちゃうからさっぱり決めてもらいたいな」


「明らかに一択じゃないですか」


「悪いようにはさせないよ。君がいいのならその後だって付き合ってあげるよ。君が俺を利用したいときまでずっとそばにいてあげる」


そういった後に2杯目のハイボールを飲み干した。

ペースが早く、今度はハイボールを2杯頼んでいる。


「酔っぱらっていってるんじゃないですよね」


「俺はいつもこんな感じだから、四六時中酔っぱらってるなんて言われることもあるよ」


八木橋の長い指にいつの間にかたばこがあった。

火をつけて美味しそうに吸う。


「君も酒のんだほうがいいよ。しらふでやりたくないでしょ」


「する前提になってるじゃないですか」


唐揚げにも手を付けていなかった。アスミの中でどうすればこの状況を打開できるか、頭の中でぐるぐると考える。この男の力を借りれば、最小限の努力でクライアントの仕事を完了することができる。私の力だけではかなりの時間を要して、失敗するかもしれない可能性があるなか、それを全部この男が引き受けてくれるというのはかなりいい話だとは思う。だが、それと引き換えにこの男と性行為をするのは自分が尻軽の女になったような気がしてとても抵抗があった。男に嫌悪感があるわけではない。外見はかなりいい。八木橋の言う通りなら、優しくリードしてもらえるのかもしれない。だか、それでいいのか。


八木橋が頼んだハイボールに手をつける。食べないと言っていた唐揚げも箸でつまんで、食べ始めていた。


「俺が食べさせてあげようか?」


「いいですから!」


ずっとこの調子でいいのだろうか。そうだ、私が食べた分を出すことにして食べてしまえばいいのだ。

そうしよう。


「私食べたものは私で払うので、頼みますね」


すると、八木橋が非難の声を上げた。


「待ってよ!そうすると俺のやり方じゃなくなるじゃないか。そんなことするならこの話は全く無しになるからね、俺は手伝いもしないし、今後助けることもしないから」


この任務は八木橋じゃなければ達成できないのだろうかと疑問に思ってしまう。ほかの人間だって助けてもらおうと思えばいるのではないか。この男が適任だと目黒から思われているのは明らかだが、そのための犠牲が自分なのは納得がいかなかった。


「私、この仕事を受けないと解雇されるかもしれないんです」


「それじゃあ、全面的に話を受けないといけないじゃないか!つまり、俺のご飯に手を付けることが正解ってこと」


「納得しないとしたくありません」


「目黒さんは一度言ったことを撤回しない人だからなあ。君も分かってると思うけど、仕事を続けるなら言われたとおりにすることだよ。そんなに悪い条件じゃないと思うんだけどなあ。俺の見立てでは、君がこういう仕事をするように許可が出たのも、こっちの使い道があったからだと思うよ」


「こっち?」


「ハニートラップ的なね。君にバッチリ似合う仕事だよ。俺だってターゲットにされたら、君に簡単についてってしまうよ」


それはどこかで思っていたことだった。目黒が自分を便利屋として雇い始めてのには理由があると。普通の女性とは違う生き方をしなければいけないとはどこかに思っていたことだった。


「それはどこかで考えていました。そういう使い道もされるかと」


「それが今回だったってわけだよ。悲観的になることはないさ。爺さんの相手になるわけじゃないし、無理くりレイプまがいのことをされるわけでもない。君は今回、恵まれてる方なんだよ」


「あまりそうとは思えません」


「こっちの世界では、常識が通じないからね。やるやつは君を何人もの男に回させて、徹底的にいたぶって捨てるやつだっているんだよ。こっちの世界の人間だからやることも荒々しい。普通の世界から外れるってことは、それを承知してるってことだ」


ぱくりと目の前で八木橋が唐揚げをほおばる。パリパリと噛み砕く音と、飲み込む音が聞こえる。


「俺だってやろうと思えば、君があの待ち合わせ場所にいたところで他の男達に頼んで、拉致してレイプすることだってできたわけだけど、やらなかった。まあ、目黒さんとの仲だし、悪いようにするつもりはなかったからね。きっと目黒さんも同じ思いだとは思ったよ。彼が君にとってマイナスになるようなことはしないと思った。自分にもマイナスになるんだから」


グビグビとハイボールの3杯目を最後まで飲むと、再び傍らにあるハイボールに手を伸ばす。


「君が本当に嫌だったら、お酒をたくさん飲めば許してあげるよ。意識がなくなるぐらい飲んで、俺と一夜を共にしてくれればそれで許そうかな。君も意識がある中で触られたくないでしょう?」


「ほんとうですか?」

一つの望みが見えた時だった。


「ああ。その代わりホテルは一緒に行くけどね」

一つの解決案が見えた。この男は私が酔いつぶれれば、最後までの行為はしないと言っている。というか、気持ち悪くなるまで酔えばそれどころではなくなるだろう。なんでこの考えにならなかったのか。


手がメニュー表に伸びていた。カシスオレンジとカルーアミルクを頼む。


「お!頼んだね、楽しく飲もうじゃないか」


アスミが救われる道は悪酔いすることだけだった。





ふらふらとおぼつかない足で歩いていると、いきなり、おんぶされる形になっていた。目の前がゆらゆらと揺れていて、どこにいるのかわからない。

ぐったりする体をピッタリと押し付けていると、ゆっくりと抱きかかえられて、ふわふわするマットレスの上に乗せられた。ぼんやりとした目で、電灯を眺める。穏やかな光の強さで眩しくなかった。

さわさわと半袖の下の腕を触られる。指でなぞるような触れ方だ。体の右側が一気に沈んでいく。誰かの重みでマットレスが沈んだようだ。


「大丈夫?」

耳元で囁き声が聞こえる。心地の良い低音で、思わずのけぞってしまう。

右側に八木橋がいることが分かった。するとここはホテルだろう。アスミはおぼろげな意識のなか、この先にある未来が安全であることを確信してしまう。

(ここで私が寝てしまえば、相手は渋々寝るしかないだろう)

アスミはそれを願って目を閉じる。しかし、男の手は止まらなかった。

するするとブラウスの後ろのボタンを外し、手を中に入れ、ブラジャーのホックを外すとあらわになった乳房を優しく掴んできた。先端を弄ぶように弄る。

体の態勢を変えようとするが、ぎっちりと左手で押さえられていて、動けなくなっていた。

ブラウスが剥ぎ取られ、ブラジャーも傍らに置かれた。

「綺麗だよ、真っ白で美しい」

さっきまで話していた声ではない、甘い声だった。囁くように耳元で呟く。その蠱惑的な感覚に思わず身を捩らせてしまう。


「うっ」


「顔が赤いよ。体はじんじん熱くなってるし。

 反応がいいね」

くすくすと笑う声が聞こえる。ふんわりと八木橋の香水が香る。ユリの匂いだ。

下半身を押し付けられ、その膨らんだものの感触が足に伝わってきた。


(熱くて硬くなってる)


この男はきっと四六時中こういう事を考えている病気の男なのだ。だから自分のような存在がいると、満足なのだろう。自分の欲が収まる。何の関係もない人間がこうやって反応するのがたまらなく刺激的なんだろう。嫌な奴だ。


八木橋は次にアスミのスーツズボンに手をかけると、するするとボタンを外し、剥がしていった。


「かわいい下着。ブルーが似合うね」

淡いブルーのパンティがあらわになって、それを何度も撫でまわす。撫で回してから、その一番敏感な部分を指ですうと触れて、じらすように何度も同じ動きをする。


思わず声が漏れた。じんわりと汗ばんできた体から背中の汗がしたたり落ちる。

八木橋は体を上半身起こして、シャツを脱ぐとアスミに密着した。八木橋の息づかいが耳元で聞こえる。八木橋のユリの香水の香りが広がる。


「もっと気持ちよくなってほしいな」

耳元で、くすぐったい声をだす。頭をこつんと優しくぶつけてきて、耳を噛んでくる。その間、左手はアスミの左の乳房に触れ、右手はパンティの中をかき分けて、一番敏感な花蕾をなぞってくる。

体が熱くなる。ジンジンと熱を帯びて、体全体が汗ばんでくる。


「いや」


「いやなの?それじゃあもうやめる?」


ぱっと手を離して、動きを止める。八木橋はねっとりとした舌使いで耳の後ろから首筋を舐めるとアスミの反応をうかがった。


正面に顔が向き合うように八木橋は、体勢を変えると、あらわになった乳首を口に含み、舌でコロコロねぶり始めた。先端を虐めるように執拗に刺激する。アスミは弾くように体をのけぞらせて、その快楽から逃れようとするがうまくいかない。

パンティの隙間から腕を伸ばし、茂みの下にある花蕾も執拗に刺激する。しばらく刺激していると、ぴちゃぴちゃと水音が聞こえてくる。


アスミは思わず嬌声をあげる。頭を枕に沈ませて、快楽の余韻を沈ませようとする。


「凄い。びちゃびちゃだよ」


花蕾を刺激していた指が、ゆっくりとその下をなぞり、割れ目に侵食していく。喘ぎ声が大きくなり、体がその指から逃れようとする。


「やめて」

荒い息を吐きながら、やめるように言うが、八木橋はにやりと口角を上げていたずらっぽく笑みを浮かべるだけで、指を動かす手をやめなかった。


「俺は変態だから、こんなところでやめることなんてしないよ。こんな一番いい瞬間にやめるなんて、去勢するようなもんだ」


筋張った指が中に入っていき、ぎりぎりと入っていく。奥までいくとほぐすように肉壁を刺激し、この先の工程をスムーズにするための出し入れをリズミカルにしていく。


「あぁ、凄い締まってるね

ほんと、今日はなんてついてる日なんだろう」


八木橋が感嘆するように言うが、アスミはその言葉を無視した。

八木橋は、流れるような動きで中に入ってた指を外し、陰茎をアスミの中に入れるとゆっくりと動き出した。

アスミの体の中はそれをスムーズに受け入れ、じわじわと侵食される快感が彼女を襲う。

入れない話ではなかったか。


「いや、やめて!」

抵抗して、腕を伸ばして男を引き離そうとするが、ぎっちりと手と手を重ねられ、ベットに押し倒されてしまう。


「いいじゃん。こんなに気持ちよくなってるんだもん、ここでしなかったら俺も情けなくなるよ。こんなに体は正直なんだから、一緒に気持ちよくなろう。君だけが悪いわけじゃない、なんだったら俺のせいにすればいい」


八木橋はそう言うと、アスミの片足を曲げて、一気に男根をアスミの中へと貫いた。アスミの中で激しい快楽が頭にのぼってくる。八木橋も切なげなうめき声をあげて、快楽に身を徹している。


「あぁ、おかしくなりそうだ」

リズミカルにピストン運動をしていく八木橋に、耐えきれずに嬌声をあげてしまうアスミ。シーツを必死に握りしめ、快楽に飲まれまいと抗っている。


「もっと体をリラックスさせて。

そうすれば気持ちよくなれるんだから」


八木橋が優しい声音でアスミの髪を撫でながら言う。


「あっあ!」

視界が真っ白になっていく。体が弾かれたようにびくついた。

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