第35話 感謝、ロメオのお陰
「〝アニー・アンブレラ〟ってなんか凄く良いネーミングよね」
「うん、アニー先生をいつも近くに感じられる♡」
「とっても……可愛い……名前、です」
「あはは、ごめんね。プレゼン中に思いついちゃって、最後にブランド名を言ったら決まるかなって!」
咄嗟に付けたネーミングだけど我ながら良いブランド名だと思う。自分の名前を冠しているのは少し恥ずかしいけれど。
「それにしても、なんで優勝があのロメオたちなのよ! 不正よ! 不正」
「どうみても、私達が一番客を沸かせた。審査員がバカだ」
「うん、勝ちを……確信、してたのに」
確かに一番盛り上がったし、一番良いプレゼンだったと自分でも思う。でも、もし私が審査員だったら、やっぱりロメオたちを評価したはずだ。
なぜならば、この世界に〝委託販売〟というものが浸透していないから。投資する側からすると、新しい試みも必要だが、確実に利益を得られる手段を持っている方が好ましい。
領主の権力か、賄賂か、脅しかはわからないが、事実二〇〇店舗の販路があるのは評価に値する。
「まあ、しょうがないわね。勝負に勝って試合に負けたと思って本番の商売を頑張りましょう」
私達がアイデアをパクられなければ勝てていた。だが、じっさいパクられて、権利を使われて負けたのも事実。
ビジネスというものはルールの中で勝負をしなければならないが、そのルールは倫理や道徳などが通用しない場合が多くあることを改めて痛感した。
布袋にはいった金貨。五万エウロが私の部屋のテーブルに置いてある。
「さて、本当は一位の十万エウロがよかったのだけれど、いまから文句言ってもしょうがないわ」
「大丈夫よアニーちゃん。これを元手に絶対に優勝しましょ!」
互いに鼓舞しあい、士気を上げる。
「生産が間に合わないという課題は未だ解決できない。そこで、十二本ずつじゃなく、その半分の六本一セットでの委託販売にしようと思うの」
「そうね、それしか方法はなさそうね」
「でもアニー先生、商品の補充の手間は二倍になる」
そこで徹夜で考えた打ち手を発表した。
「これは皆にも意見を聞きたいんだけど、宣伝費用として考えていた費用を、補充要員の人件費にしたらどうかしら」
「なるほど、常に契約店を巡回して、雨傘を補充して回るんですね。さすがアニー先生♡」
「でもさ、アニーちゃん。宣伝しないと売れないんじゃないかな」
「わ、私も……そう……思います」
たしかに、いままで無かった商品を世の中に出す場合は認知広告に多く
「私達が本選ピッチ大会で一位を穫れてたら広告費も捻出できただろうけどね」
「ほんとに、全部ロメオのせいよね」
シルビアは悔しそうな顔でハンカチに噛みつく。
「ロメオのせい? ふふ、予言するわ。シルビアは来週には〝ロメオのお陰〟って言ってるでしょうね」
「フン、絶対そんなこと口にしないわ」
翌週、街の中には〝雨の日に差す『雨傘』で雨が好きになる〟というキャッチフレーズの看板やポスタが街中に溢れている。ロメオが広告にかなりのリソースを割いたのだ。街行く人が立ち止まってまじまじと見るほどの興味を引いている。
「雨傘の広告、いい感じね。かなり話題になっているわ。ふふ、よしよし」
「よしよし、じゃないわよ! アニーちゃん、ロメオの味方なの?」
委託販売用の傘もなんとか契約した飲食店すべてに届け終わり、あとは雨が降るのを待つだけだ。寿司ジョゼにも雨傘を差した傘立てを設置した。ヴェロニカがデザインしたアニー・アンブレラのポスターも目立つ場所に貼ってある。
ランチ営業に来た男女二人組の客が傘立ての前で立ち止まる。
「お! これって、いま話題の雨の時の傘じゃないか?」
「ほんと、ピンク色の方、可愛い。お給料入ったら買おうかしら」
その光景をみてシルビアが驚く。
「え? 今の二人って顕在顧客じゃない」
学院の授業で習ったばかりの顧客属性。いつか買う可能性のある潜在顧客ではなく、すでに買う意思のある顕在顧客だ。
「認知広告っていうのはね、他の類似商品も一緒に広告してしまうという現象が起きるのよ」
「ロメオの支払った広告で私達のアニー・アンブレラも認知されたってこと?」
「ええ、そういうこと。私達はタダで広告の恩恵を受けられたの」
「わーっ! すごいわっ! これもロメオのお陰ね」
私はニヤニヤしながらシルビアに一言。
「〝
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あとがき
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次の話もお楽しみいただければ幸いです。
がみさん🐾
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