第10話「選別の刻と、コードΩの使徒ユウリ」

 レンたちが転送された先は、一見すると“日常”だった。


 ビルが並び、人が歩き、電車が走っている。2025年の日本、現代の市街地の風景そのままだった。


「……帰ってきたのか?」


 そう思ったのも束の間、違和感が忍び寄る。


 同じ服の人間が、同じセリフで、同じタイミングで動いている。まるで“コピー”された映像の中に放り込まれたかのようだった。


「これは……現実じゃないわ。再構成された模倣世界よ」


 ルカの警告と同時に、世界の“空”がノイズのように揺らぐ。


 そしてその空から、ひとりの少女が降ってきた。


 長い黒髪に、整った制服姿。だがその周囲には、“バグ”と“光”の粒子が舞っていた。


「久しぶり、レンくん」


 彼女は、微笑んだ。


「……誰だ?」


「ひどいな。昔、一緒に図書室でラノベを読み合った仲じゃないか」


 思い出そうとするレンの頭に、微かにノイズが走る。


 ルカが小声で言った。「記憶操作が行われてるわ。注意して」


「私は《咲夜ユウリ》。コードΩの保持者。そして、“世界の選別者”」


「コードΩ……またかよ」


 ユウリは笑った。「コードXは“選択権”。コードΛは“破壊”。そしてコードΩは、“選別”。価値ある者だけを残す、そんな未来のために私は動いている」


「それをお前が決めるってのかよ」


「ええ、私が決めるわ。この世界で、本当に“未来を創るに値する存在”を──」


 そのとき、世界が裏返った。


 風景が崩れ、レンたちは“精神領域”へと引き込まれる。そこは、色も重力も言葉も意味を成さない、感情だけが支配する場所だった。


「ここでは、意志が力になる」


 ユウリの周囲に、無数の“価値判定スフィア”が浮かぶ。それぞれが対象者の“存在意義”を数値化する。


「君の数値は──“17”。微妙ね」


「ふざけんなよ……!」


 レンが吠える。その想いに、つばきが呼応する。


【共鳴スキル:心核展開(コア・ドライブ)】


 レンの胸元に“光の核”が現れ、意志が形を取って放たれる。


「お前が“選ぶ”ってんなら──俺は“拒絶”する!」


 衝突。


 ユウリの判定スフィアが砕け、世界が大きく揺れる。


「いいね……その“バグ”。もっと見せて、もっと壊して……!」


 ユウリは微笑みながら後退し、精神空間が閉じる。


「次は、選別の最終段階で会おうね。レンくん」


 彼女の姿が消えると同時に、偽の市街地が崩壊し、レンたちは再び転送の渦に包まれた。


「くそ……また訳わかんねぇのが出てきやがって……!」


「でも……これで分かった」


 つばきが、そっとレンの腕を掴んだ。


「この戦いは、“正義”とか“悪”じゃない。“世界そのもの”を、誰がどうするかって話なんだ」


「ああ。だったら、選ばれなくてもいい。俺は──俺たちは、“捨てられた側”のままで戦う」


 その言葉に、ルカが静かに頷いた。


 次なるコード保持者──そして、世界の“終端”が、少しずつ姿を見せ始めていた。

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