第2話 はじまりの村の視察をがんばる作者
木組みのアーチがあったのでそこを潜って村の中へやってきた。
わりと木造建築が立ち並ぶしっかりした佇まいだった。
お、入り口付近に誰かいる。
ここの村人かな。
細身の若い男性が一人いる。俺が村を訪れたのも視界に入ったはず。
たまにキョロキョロと首を振る。見張りでもしているのかな。
まあいい。声を掛けてみよう。
「こんにちは!」
彼が俺のほうを見た。
すかさず返事を返してくれる。明らかに部外者なのに来客は珍しくないかの様だ。
「おや見かけない顔だね。旅人さんかね?」
何の警戒心もなく二言返事でにっこりと歓迎してくれる。
俺のように人見知りはしないようだ。
入り口付近で村の案内役でも担っているのかも。
「ええ、旅人です。こちらは何という村ですか?」
「ここはね、リンネ村だよ」
変わった名前のはじまりの村だな。輪廻のことじゃないよな。
なんか冒頭から重たいイメージだな。
「そうですか。あなたはこちらの住民の方ですか?」
「ああ、テトだ。昼間はここで、こうして見張り役をしてるよ」
案内役ではなかったけど、見張り役だった。
警備隊の様に武装している様子はない。盾も鎧も着用していない。
棒っ切れすらも持っていない。
「なにを見張ってるのですか?」
見張りがいるなら魔物や賊の侵入を警戒してるのかもしれないな。
「村人が無事に帰ればよし、魔物に負傷させられれば医務室に運んで治療に当たらねばならんからね」
「それは、ごうくろうさまです」
大体察しはついていた。魔物だよな。
周囲を見渡すと村の規模が小さめだとわかる。
ここに長居はしたくない。理由はより華やかな街に行くほうが早く活躍できる。
せっかくの異世界だ。強くなって楽しませてもらいたい、その願望はある。
「ところで、こちらよりも大きな街はどこにありますか?」
なぜゲームのように小さい村から開始なのかわからぬが。でもまあ、いきなり夜で漆黒の森に放置されて獰猛な獣の声に怯えて怖い目を見るよりマシだとは思う。
どのみち主要都市には行きたい。
テトは村の案内もまだなのに、大きな街について語る。
「ダイリンネの街というのが、ここから40kmほど東に行けばあるよ」
「東へ40キロですか、ずいぶん遠いですね」
原チャリでも1時間はかかる距離だな。だだっ広いな。
オープンワールドMMOを連想すれば頼もしい気もする。まだ自分に何ができるのか分からないのに移動は野暮だ。
ここに自分が置かれた意味を知ることも重要だ。
村、街の名はわかった。では国は。
「どうも。尋ねてばかりで申し訳ないんですが、ここは何という国ですか?」
それを尋ねるのは不自然だったかな。テトは眉根をよせた。
「おや異国のひとだったんかね。ここはね「ツナフレーク」という国ですよ」
それでも異国の者という理解を示してくれた。
国が複数あることが判明した。
ツナフレーク国のリンネ村か。
大きな街は40キロも先で、ダイリンネという。他の候補はないみたいだ。
徒歩だと今日中に行くことはできなさそうだな。なんせ俺、足腰弱ってるから。
村に入る前に波の音が聞こえた。ここは漁村なのかもしれない。
もしも、タンパク質に恵まれた村人なら魔物も襲い甲斐があるだろうな。
──なんて口に出して言ってはならないことって、つい思い浮かぶんだよな。
「魔物の討伐は村の方がなさっているのですか?」
「いいや、我々には無理だ。大きな街に行けば冒険者が集まる酒場があるからそこに討伐依頼を出して退治してもらうんだよ」
へえ、そうなのか。
村の周辺も魔物はうろつくのだ。依頼費用も馬鹿にならないだろうな。
「それじゃ、お金が掛かるでしょう?」
「ええ。でも国の補助金もありますから……なんとかなってますけど」
魔物が相手じゃ死活問題だ。全額自己負担じゃ村の経済がガタガタだ。
しっかりと国が対策を立てているなんて、治安は行き届いているね。
やるじゃない。
「あ、そういう制度があるんですね?」
「なければ私らなど、とても生きていけませんよ。はっはっは」
笑ってらあ。
きっと日常的な事柄なんだろうな。魔物のいる暮らし。
冒険者は必須な存在か。
たまに魔物が村の外に出現して負傷者がでる程度かな。
この辺はのどかそうだし。
見たところ、兵士っぽい人がほとんど歩いていない。
「その、冒険者に村の出身者がいらっしゃったりしますか?」
これは一番興味のあるところだ。いるなら早めに接触を試みたい。
冒険者の手ほどきはあるに越したことはないから。
テトの表情が少し曇る。
「いなくはないが、武具を装備したところであまり上級者になれないからね。だれも成りたがらないよ」
一応はいる、という回答が得られた。ほっとした。
彼はまた、あははと照れ笑いをした。
強くなれないとはどういうことなんだ。
ここじゃ安い武具しか入手できないからとかそんな理由ではないよな。
「なぜ上級者になれないんですか? 武具が安物のままで弱いんですか?」
テトは目を丸くした。やれやれと苦笑いで語る。
「えっ! あんた、そんなことも知らないのかね?」
これは知っているのが常識の様だ。
そんなことも知らないから恥を忍んで尋ねているのだが。
笑われても仕方がない。異世界の説明はふつう、しないよな。
「いやぁ田舎者でして、すみません」とりあえず困ったら田舎者で通すとしよう。
「べつに謝らんでもいいさ。私らは魔法が使えないからじゃないか」
あ、単純にそこなんだな。
村人って一般市民ということかな。魔法とは縁遠い感じですか。
「魔法を使える人ってどの様な方ですか?」
テトは軽く首を横に振り、ふと目を閉じる。
「それは貴族のような高貴な生まれの方たちだよ」
貴族のことを口にするのに目を伏せるなんて。どれだけ格差を感じているのやら。
俺に悲し気な目を向けると、自分たちの様な存在と比べてはいけない。
息も詰まるような強張った話し方が逆に健気さを浮き彫りにする。
この人たちにとって上位階級は恐れを抱くほどの存在。
言葉に重みを感じる。魔法と縁遠いというより生まれだった。
申し訳ない気持ちもあるが、もう一声だ。
「冒険者がいなくない、と言われましたが。その方は今どちらに?」
よそ者で無知な若者が冒険者に興味を示している。
テトは不思議そうに目を細めた。
「あいつは、ずっと前に村を出て行ったよ──」
ここには居ないのか。俺が残念がると、また優しく笑った。
その目は遠くを見る様に語る。
「あいつは魔物に家族を滅ぼされた強い痛みから、冒険者を志願して魔王を討ち果たす旅に出た。村の者は必死に止めたが、「止めるなら家族の後を追う」と聞かなかったからな……」
何とも耳に痛い話だ。
「魔法を使えることは、そんなに重要なことですか?」
「魔法を使えるのなら天国だ。強い冒険者になれば稼げるし、自衛できるし、尊敬もある。貴族に触れる機会も稀にある。良いこと尽くめだ」
貴族は近づきたくない派ですが。
その貴族の一人でも、こんな村を気にかけてくれることはないのだろうな。
なのに貴族など持ち上げて憧れている人がいるなんて。
憧れの貴族様は魔王討伐に役立っていなさそうだ。
そのせいで俺たちは神に召喚されてきたのだからな。
「貴族……ですか。ところで冒険者への道って険しいですか?」
貴族の話は取りあえず置いといてもらおう。
「貴族に興味津々か?」テトはうっとり顔で俺を見つめてくる。
違います、違います! こっちも首をぶんぶんと横に振る。
「聞いて置きたいだけですって! 登録資格って険しいんですか?」
俺はテトに冒険者の話をしてくれとせがんだ。
「そうか。いやそんなことはないさ。魔物を恐れないで守りたいものがあるなら、国は誰でも歓迎しているよ。ただ強くなれる保証はない。そして弱いままだと稼ぎが少ないのに負傷は絶えないからね。貴族のように生まれつき多少の魔力を持つものは優遇されるんだけどね……」
なんと貴族は生まれつき魔力がある。
それなら王族とかもその類いの可能性があり、お近づきの喜びの意味もわかる気がする。
家柄とか血筋で運命が位置づけされている世界なのかな。
もとの世界ではいつもネット頼みで階級とは無縁だった。
部屋にこもりっきりだったので差別や偏見でいじめられないか、もう心配になってきた。
早く終わらせて、とっととに日本に帰るために鍛えなきゃ。
ゼルダのりょーごの異世界ライフ ゼルダのりょーご @basuke-29
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