第11話 懐かしい感覚
「エディング殿下、レイチェル様。夕食のご用意が出来ました」
私の部屋に戻ってきたタイミングで扉の外から男性の声が聞こえてくる。聞いた事がある声の主はおそらくガリオンなのだろう。
「レイと二人で向かう。お前達は先に行っていろ」
私が答えるよりも早く返事をするエディング。
どうして私と二人で居ようとするのよ。
戸惑っていると「畏まりました」と扉の前から去って行くガリオン。出来るだけ二人きりは避けたかったのだけど私が皇子の決定を覆せるわけもなく諦める事にする。
軽く身なりを整えてから部屋を後にした。第二皇子宮を抜けて皇城にあるダイニングルームに向かう。城内は広く複雑な造りをしている。なるべく早く部屋の位置を覚えないと道に迷ってしまうだろう。
「少し落ち着きがないな」
きょろきょろと城内を眺めながら歩いていると睨まれてしまう。慌てて「申し訳ございません」と深く頭を下げる。
このままでは落ち着きのない女認定される。個人的にはそれでも良いのだけど皇子妃として相応しくないと思われたら最悪だ。
「怒っていないから頭を上げてくれ」
顔を上げると申し訳なさそうな表情を見せるエディングと目が合う。こちらが失礼な事をしたのにどうして彼が申し訳なさそうにするのか分からない。ただ不興を買ったわけじゃなさそうで安心はする。
「どうかしたのか聞きたかっただけなんだ」
「早く部屋の配置を覚えたかったんです…」
今やるなって話ですよね。
後で案内してもらったら済む話なのに。怒られるかもしれないと思いつつエディングを見ると胸の前で腕を組んでいた。にこりと微笑む彼が怖くて全身から冷や汗が流れ出る。
「それなら私が案内しよう」
「え?」
「レイは城に来たばかりだ。配慮が足りなくてすまない」
それで申し訳なさそうな顔になっていたのね。
別に気にしなくて良いのに。
それにしても皇子に皇城内を案内してもらって良いのだろうか。こういうのは使用人の役目な気がするけど。
「あの、案内は他の方でも…」
「レイは私の妃だ。他の者に任せるわけがないだろ」
皇子なんだから他の人に任せなさいよ。
ただ彼の好意を無碍にするわけにはいかない。それに皇族じゃないと入れない場所もあるだろう。申し訳ないが任せるしかない。小さな声で「分かりました。お願いします」と返事をすると満足気な表情を向けられた。
この人、変わっているわ。
「ちゃんと案内してやるからもうきょろきょろするな」
「すみません」
「謝らなくて良い」
優しく頭を撫でられる。
あれ、この感覚どこかで…。
懐かしく感じる手に胸の奥からじんわりと温かさが満ちていく。原因不明なそれは全身を火照らせる。
「レイ?どうかしたのか?」
「い、いえ…。なんでもありません」
今のなんだったのかしら。
よく分からないがエディングに頭を撫でられるのは嫌な気分にならなかった。むしろもっと撫でて欲しいと思った。碌に知らない人にそう感じている事に違和感を覚える。
「ああ、そうだ。言い忘れていたが今日は私の両親と兄妹も一緒に食事をする。緊張しなくて良いからな」
にこりと笑うエディング。衝撃の事実に違和感が吹き飛ばされる。家族と一緒に食事って聞いていないのだけど。皇城で食事をすると言われた時にその事を考えるべきだった。
エディングの両親と兄妹という事は全員が皇族だ。第一皇女殿下を除く全員と挨拶をした事があるけど食事を共にするのは勿論初めて。胃が痛くなってきた。
「嫌か?」
「出来る事なら逃げたいわ」
言ってから口を塞いだ。今のは失礼過ぎる。エディングの顔を見ると怒って…いないようだ。
むしろ楽しそうに笑ってる。何故嬉しそうなのか。
「そっちが素か?」
「申し訳ありません」
素を出すつもりはなかったのに。
動揺して取り繕う事を忘れてしまうとは。今まではこんな事なかったのに。いや、でもいきなり皇族と食事しますってなったら誰だって驚くに決まってる。私は悪くない。悪いけど。
「いや、良い。私の前では取り繕うな」
「え?」
「行くぞ」
上機嫌に廊下を進むエディングに続いて歩く。
取り繕うなって無理でしょ。
素を出したら不敬の連続だ。取り繕わないわけがない。それにしても会ってから笑顔ばかりを見ている気がする。やっぱり冷酷な人という噂は嘘なのだろう。
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