第2話 東名高速道路

東京・用賀の東京インターから、神奈川県中部を通り、静岡、愛知両県を横断し、愛知県小牧で中央道、名神高速と接続する。東名とも呼ばれる。アジアハイウェイ1号線の一部。


「もー!だからさ、言ったじゃん!私は湘南が良かったって!」

その声が渋滞中の車中に響き渡る。

彼女は、清水あおい。中学校の夏休みで祖父母の家へ向かっている。

「だいたいさ、向こうに行っても、やることないでしょ、暑いだけだし。あー、なんでこんなに近いのに海に行けないんだろ。」

どうせ、祖父母の家に行っても、この時代のくせにネットは繋がらず、寝るのは日が沈むのと同時、起きるのも日の出と共に。しかも、犬の散歩までやらされる。エアコンもないし、避暑地というほど涼しくはない。正直、家の近くの海岸で遊んだり、デートしたり、家で寝ていたかった。

彼女の父が答える。「あおい、少し黙っててくれないか、渋滞でイライラしてるんだ!」

母も言う。「そんなに重要?おばあちゃんたちが可哀想だと思わないの?」

即答する。「思わないね。せっかくデートに誘われてたんだし。」

「まぁ!なんてひどい子!」母親が若干ヒステリックになるがしょうがない。

正直、周りは休みだからと言って家で寝てたり、友達同士で遊んだり、デートしたりしているのに、親に振り回されてるのは私だけ?なんて、思ってしまう。確かにおばあちゃんたちはいい人だ。分かってる。でも、今は、タイミングが。そう思ってしまう。これは私のせい?そんなことを思いながら、道は進む。

ふと、看板を見ると平塚と書いてある。

「ねぇ!左に行けば今からでも遅くないよ!」

「ダメだ。」「おばあちゃんたち、待ってるのよ。」

淡い希望は打ち砕かれた。

ふと視線をやると遠くに川が見える。

あー、入りたいな。そう考えてもできない。何しても否定されるだけだ。思いつきでも。

何とか、流れは良くなり、山の奥のパーキングエリアに停まった。

休憩だ。

親がトイレに行っている間、売店を見る。古ぼけたパーキングエリアだ。普通なら行かなそうな。早く、終わらせたいな。そう考えていながらも、暇つぶしのために店内を見る。

レジ横のホットスナックでも食べようか、そう見ていると、ん?何か変なものを見る。

「何これ…アメリカンドッグに顔?」

オヤジギャグみたいな商品名が書かれたアメリカンドッグには、茶色い、笑っている顔があった。

面白そうだからと、彼らが来ないうちに買ってしまう。こんなところ見られたら、笑われたり、無駄遣いだとまた言われる。

自分のアイデンティティ、やりたいことなのだ。

ネットで調べてみると、手作りのアメリカンドッグで、この辺りの水を使った、丁寧なもののようだ。また、ケチャップやマスタードを蝶ネクタイみたいにするとウケが良いみたいだ。

「じゃあ、私も…。」

結果はうまく行かず。福笑いみたいになってしまった。

思わず笑ってしまう。あれ?そういえば前に笑ったのっていつだっけ?

もしかしたら、何かしなきゃ、何か変わらなきゃと思っていて感情が無くなってたのでは?そう思う。福笑いみたいな顔を食べながら、あおいは、ああ、完璧じゃなくてもいいんだと思い、バレないように渋滞を解消するかのようにペースを上げて食べ始めた。

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ハイウェイ-Various Route- @HaruICE

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