ハイウェイ-Various Route-
@HaruICE
第1話 中央自動車道
東京・高井戸の首都高速から接続し、東京、山梨を横断し、長野県岡谷で向きを変え、南信を進み、愛知県小牧までを結ぶ道路及び山梨県大月市から河口湖へ向かう高速道路。中央道とも。
春の平日。新宿西口のバスターミナルに高速バスがやってくる。
そこに1人の温和そうな初老の男性がやってくる。
彼の名は、山崎正太郎という。
彼は新橋の商社で働いていて、部下には山さんと言われ、慕われ、部下と呑むことと愛する妻とともにいることが幸せで去年、ついに定年を迎えた。会社から暖かな笑顔で見送られた山さんはとても幸せそうな表情で、老後も愛する妻と一緒にゆっくり過ごそうと決めていた。
しかし、そんな考えが変わってしまう。
山さんがある日、図書館から帰ったときだった。電話には留守番電話がかかっていた。
何かと思い、ふと再生ボタンを押す。
「もしもし!そちら山崎さんの電話でお間違えないですか!ご家族の方が交通事故で救急搬送されました、至急折り返してください!」
聞くや否や、すぐに走り、タクシーを捕まえ、動転した声で病院まで、と伝えた。
遅かったのだ。聞くと、スーパーの帰りに自転車が高速で通過し、撥ねられたという。
山さんは怒ることも泣くこともできなかった。
怒って、泣いて帰ってくるわけではないのだ。
一応、加害者からの謝罪はあったが、ああ、そうですかとしか受け止められない。
身寄りもいないので、葬儀を済ませ、一人茫然と家にいた。
どうすればいいのだろう。
ある時、ふと、書斎の古い旅行雑誌を見ていると、見覚えのある文字があった。妻の文字だ。
山さんは気づいた。
彼女は信州の生まれで、老後は信州で暮らそうか、旅行にでも行こうかとも話していた。
その時、山さんは1人で悲しく泣き、よし、よし、絶対一緒に行くからなと、その本と、写真を持って、急いで高速バスを予約した。
新宿のバスターミナルは久しぶりだ。
西口の電器店の隙間の小さな窮屈そうな、うなぎの寝所のようなバスターミナルはなくなり、煌びやかな、自分にはあまりにも合わない、都会感のあるビルからだった。
「旅という感じがしないな。」そうつぶやく。
バスがやってきた。とりあえず、松本に行くことに決めていた。城や温泉、行きたかった場所を2人だけで巡るのだ。
4列シートの空間は堅苦しい都会から抜け、中央道に入る。
山さんは気を紛らわそうと、昔、妻からのプレゼントでもらったプレイヤーで音楽を聴いていた。
「なんか似合わないね。」
そんなことを言っていた気がする。
車は快調に進み、真っ直ぐに山へと向かう、当てのない旅。
そこに歌が流れる。
「道を山に向かって行けば 夕焼がガラスを焼く セントラルハイウェイ」
驚く、仲道あずさのセントラル・ハイウェイじゃないか。それも妻が好きだった。
「右にハンドル 左はあなた」
ふと、通路を見る。
目を擦る。さっきまで妻が見えた気がする。
もしかして…
そんなことを考えながら、車はスピードを上げ、武蔵と甲斐を分ける笹子トンネルに入っていった。
笹子トンネルを抜けると、高架の上を走り、甲府盆地に降りる。
まるで山が心電図になっていたかのように気持ちが落ち着く。
何だったんだ。あれは?
そう考える。しかし、分からないのだ。
そもそも、何で今バスに乗っているかも分からない。特急列車にでも乗り込んだ方が早く着いたのではないか。そう考える。
こんな時、隣にいてくれたら?いや、こんな状態で会えるものか、そう言い聞かす。
バスはそうしているうちにサービスエリアで休憩に入る。
1人、バスの中で待っている時に気づいたのだ。あれ?もしかして昔ここを訪れたのではないかと。
そう、ふと足跡を追っていたのだ。あの今は亡き、窮屈なターミナル、あの音楽、風景、そして今いる場所。そう、全てが繋がった。ああ、これは彼女の最後のイタズラだったのかもな。
思い返せば、結構イタズラ好きな人だった。
脅かしたりするのは日常茶飯事だった。
あれ…?目頭が熱い。何で、何であの人が!
自分に無理をしていたのがやっと気づく。ごめんな、こんな人で。でも、君がまだ私を認めてくれるのなら。もっと旅をしような。そう、雪が少しずつ溶けていた車の中で言う。誰にも聞こえないように。
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