シベリアンラプソニー・ブレイク
日向凛
第一話 私の名前は?
【第一話 私の名前は?】
「くっっそ、なんなのあいつ。さっきからこの辺うろちょろして‼︎呑気に寝ることも出来やしない。」
「隠れて、やり過ごすのが無難かな」
でも、私は知らなかった。今日ほど無難って言葉と正反対の日なんてなかったこと。
「ひぃぃ!?おおおお?な、なんだ?…えっ」
(地面に……人?喋らないし、動かない。まるで……埋葬された遺体みたい。なのに、生きてるの?)
「ね、ねぇあんた生きてる?」
(場所ってのは重要だ。何かを思い出す鍵であり、思い出を作る工房であり、唯一無二だから)
「だ、大丈夫…ですか?」
「……」
「あなた、生きてるの?」
「……!」
力無く手を伸ばす、その手は土と血にまみれた手。
[うわぁぁ…手を伸ばしてきた。触りたくない。不衛生だし、触ったら何されるかわからないし]
「ってあんた、身体中血まみれじゃない!」
「…?」
「えーーっと、電話電話…」
「もしもし、地面に埋まってる怪我人がいまして、いや幻覚とかじゃなくて、割とマジで」
「名前?アンナ・フェイス。場所は、ディノ・マリノ。…は?来れない?なんでよ!!もういいわ!」
《ここディノ・マリノは、岩と土ばかりの海岸線が続く異質な場所。そんな場所に、ふたりの視線が交差した。》
「あ……んた、名前あんな?」
「あんたしゃべれるの⁉︎。というかその声、あなたもしかして女なの!?」
「オンナ?」
「え?あなた女がわからないの?」
「いや、わかる…私は女だったのか」
(ぇえーなんなのこいつ。)
「んしょっと、」
「…あんたさっき下半身まで埋まってたのよね!?」
「だから引き抜いた。」
「よくわかんない……わね」
(これは夢?夢を見てるの?それとも目が悪くなった?気のせいでないならば、男でも女でもない。私たちの常識では測れないなにかが…)
《埋もれていた人の体は先ほどの血まみれな体が嘘のように、綺麗さっぱり消えていた。まるで最初から血などついていなかったように。》
「なぁ、あんな。なぁ?」
「なによ!」
「私の名前を教えてよ。」
「はぁ?知らないわよ。そんなの」
(なんなのこいつマジで、名前を教えて?
私が知るわけないでしょ)
「アンナ嬢様に何してる!」
(ゲッ、バロン⁉︎ ってか、「アンナ嬢様」ってお前らが破門にしたのんじゃないの!!」
「アンナお前あの素っ裸の変態に襲われたんだよな?殺してやる!!」
「よっと、」
《彼女が指を動かすと、まるで空気の中に張った透明な弦を弾いたような──その瞬間、音すら置き去りにして空間が割れた。》
「グハッ」
《風一つなく、何も感じない。しかし、バロンの腹部が弾けるかのように凹み吹っ飛んだ。空気すら介してないように、物理の外にあるように》
世界が歪んだ。
「え?今何したの?」
「…さぁ?」
「あれ…死んじゃったかな。とりあえず服は貰っていくね。」
「ねぇ、あんたさっきのもしかして能力?」
「なにそれ」
「変異体になった人間だけ、悪魔と契約して能力が使えるんだよ。」
「変異体ってー?」
「病気よ、病気。どんな動物にもかかる病気。」
「じゃぁ、そうなんじゃない」
(もー、なんなのこいつ)
「あんね、私の記憶は…私の最初の記憶は貴女と出会った事だ。」
「あんた、名前が欲しいんだっけ?」
「あんたって呼ばれるの嫌だ。」
「じゃぁ、えーっと」
(最初…始まり……何も、ない?)
「ロ…ゼロよ。あんたの名前は、ゼロ」
「ゼロか…わかった。いい名前だね。
私は今日からゼロ・フェイス」
「ちょっと、なんで私のファミリーネーム使うのよ…!」
(ゼロ…ふざけてない、本気の目。これを機に何かに巻き込まれる気がする……だる)
「子は親のファミリーネームを名前の後につけるから」
「ちょっと!…私はあなたの親じゃないわ!」
「"ゼロ"だ、私の名前は"あなた"じゃない」
「あぁ、もう!そういう意味じゃないわよ、あなたって」
「…?」
「……はぁ、まあいいわ。ゼロはこれからどうするの?」
「あんなに着いていく。」
「ダメよ。」
「なんで?」
「私は
《シベリアンラプソニー…狂気のレースに参加する者どもが極寒の中奏でる物語。そういう意味で名付けられた。》
「シベリアンラプソニーって?…危ないの?」
「あーー…そっか、そこから説明しないとね。」
「お願い、あんな」
「狂ったレースよ。悪魔契約者によるね。」
「じゃあ、私も行けるね。」
「なんでよ。」
「だって、あんねが言うには私悪魔と契約してるんじゃないの?」
(確かにそうだけど、そうじゃないわよ。)
「けど、ゼロ。記憶も何もないなら、それを探すべきじゃない?」
「私は今日より前の誰かじゃなくて、今日生まれたゼロ・フェイスだから。」
「…ゼロは興味ある?シベリアンラプソニー」
「思い出作りには丁度いいかな。」
「ゼロ!!シベリアンラプソニーは死ぬかもしれないギリギリの世界での戦いなんだよ!?」
「それに、あんねも行くんでしょ。」
「そ、そうだけど」
「ここでいかなかったら私には何も残せない。私はゼロだからイチに向かいたい。」
「……少しここで待ってて」
「わかった。」
数分後
「待っててなんだろ。」
「ん、んぁ…?俺は…一体何を」
(誰だっけあいつ?)
「おい、変質者。」
「今は君が変質者だよ。裸だし…恥ずかしくないの?」
「服取ったのあんただろ!」
「"あんた"じゃない。"ゼロ"」
「は?」
「私の名前はあんたじゃない。」
「……いや、あー…そうだな。ゼロ」
「分かればよろしい」
「ああ、いや服返せ」
「なぁ…」
「この!話聞いてんのかおめぇ」
「『待ってて』ってどう言う意味?」
「ここで、動かずにいればいいんだよ。」
「え?私動いちゃった。」
「どんぐらい?」
「あの穴の辺りで待っててって言われた。」
「じゃ大丈夫だ。」
「どういうこと?」
「待っててって言われた場所から見える範囲に居ればいいんだよ。」
「そっかー」
「…いや、だから服返せ」
「や!」
「や!じゃねぇよ。」
「寒いからやだ。」
「俺だってさみぃよ!」
「ちょっと!バロン。ゼロに何してんの!
それも裸で!」
「いや裸なのはこいつのせいだわ!」
「ゼロ服は返してあげなさい。ゼロの服持ってきたから。」
「わかった。返す、えっと…はろー?」
「バロンだ、バロン!」
「バロン、2度と付き纏わないでね。また付き纏ってきたら海に投げ捨てるから」
「気を付けます。」
「…この服や!」(ふりふりの付いた、見るからにゴテゴテした地雷服)
「ちょっと!投げ捨てないでよ。」
「その服返せはろー」
「俺の服だわ!てか俺の名前バロン!」
「ほら、ちゃんとした服よ。」
「これなら、いいかな。」(白のスーツ)
「決まってんな、ゼロ」
「まだいたんだ。バロン」
「そりゃひどくないっすか?お嬢様」
「2度とお嬢様っていうな」
「わ、わかりました。」
(仲良いんだなぁ〜)
「ゼロ、検査しに行くよ」
「けんさ?」
「ゼロがどんな悪魔と契約してるかの検査」
「それでは、私はここで」
「ばいばーい」
「バロンあんたも着いてきなさい。」
「な、なんでですか!?」
「能力を食らった張本人だからよ。」
「わかりましたよぉ…」
《これは、ゼロとアンネの冒険譚。ゼロからイチに向かっていく冒険譚。不可思議でそして非現実なそんな物語》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます