よる・べ

おい 寝ているか

寝ているならいい

そのまま寝ていろ

そのまま聴け


おれはお前のものにはならない

おれは誰のものにもならない

お前がおれの人生をどう捉えるかは勝手だが

おれは誰のものにもなることがない

お前と会ってそれがわかったのだ


お前の知らないやつが

おれの人生を占って

「自分のためには生きられず

他人のために生きてこそ輝く人生だ」と言った

頭から信じたわけでもないが

肯(うなづ)ける部分はある

おれには自分がない

おれは入力を受けて反応するプログラムであるという感覚が拭えない

そしておれはMITライセンスで自分を公開してしまった

お前や他の誰かはおれを持ち帰って何かに使うかもしれないが

それはおれを所有したことにはならない

おれはそのように生きたいし

そのように生きていくつもりだ


お前の知らないそいつはお前のことを知っていて

ふざけておれにお前の名前を名乗らせようとしたこともあった

辛くもそれは免れたのだが

そいつとおれは恐らくもう二度と会話することがない

そいつはおれとお前の関係のことを何もわかってはいない


お前の知らないやつが

おれがお前と会ったことを指して

「君がいいなら止めはしないが

君の人生があの人によって狂わされていくような気がする」と言った

これは至極真っ当な心配だったし

そしてお前も知る通りけして杞憂ではなかった


おれにとってそいつは今も敬意を払うべき友人だ

だがそいつはおれとお前の関係を何もわかってはいない


お前の知らない人たちが

おれが何度もお前の話をするのを遮って

「その人と暮らし続けるつもりではないのだろう

そろそろ将来を共にできる人の話をしてはくれないか」と言った

おれは困惑し

未だに答えに窮している

おれはおれが誰のものにもならないことをどうやって説明すべきだろうか


おれはあの人たちを変わらず愛しているが

あの人たちはおれとお前の関係を何もわかってはいない


誰も

おれとお前の関係を何もわかってはいない


おい 寝ているか

寝ているならいい

そのまま寝ていろ

そのまま聴け

おれはお前の知らない間にたくさん詩を書いた

その多くは夜の詩で

そしてその全ては一人でいる夜の詩だ

強いて言うならばおれは夜のものだ

夜だけのものだ

けれどもだ


おれは誰のものにもならない

お前と会ってそれがわかった

それはそれとして

おれはお前といる夜の詩を書いたので

今お前に読み聞かせている


お前がおれの人生をどう捉えるかは勝手だが

おれは誰のものにもなることがない

強いて言うならばおれは夜だけのものだ


だからおれは

二度と誰かといる夜の詩を書くことはないだろう




《公開時コメント》

(ごく個人的な詩です)(人間は自分一人のものではなく、同時に誰にも所有されることはありません、これはもちろんあなたもそう)(でもそれを再認する必要性に駆られることはある)(「寄辺」という言葉と「夜」という言葉には意外にも特に関係がありませんね)

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