〈#異世界転生〉。
日差しが燦々と降り注ぐ土曜の午後、昼飯の後に扇風機の真ん前でスマホを弄る。
〈インターネット〉という、彼方には無かった概念とツールはとても面白い。幼少期からこんな環境で育った以上それなりの知識は有れど、意識が代わったからか、モノの見方がガラリと変わって新鮮でしかない。
「もはや魔法だろ、
行き過ぎた何ちゃらは、とかいうヤツだ。
瞬時に地球の裏側の情報を見れて、コミュニケーションがリアルタイムで取れる。顔も見た事ない他人と掲示板で馬鹿話をしたり、知らない人のあげたショート動画に〈いいね〉と飛ばす。
やれる事が膨大で、それなりの悪習もあるようだが、それを包括しても利便性は高い。心から凄いと思う。
ネット内を徘徊していると、web小説、小説投稿サイト、アニメ等のジャンルで〈異世界転生〉という単語をよく見かける。
剣と魔法のファンタジーな世界に、事故なんかをきっかけに転生(転移)して活躍する主人公の面白おかしいお話が、人気な様子。はたまた現代世界にダンジョンや魔物が発生して、此方の一般人が魔法やスキルに目覚めて無双したり。
程よい非日常をスパイスにして、空想世界へと思いを馳せるような感じだろうか。フィクションな物語だと理解しつつ楽しむ娯楽。
検索欄に〈#異世界転生〉と打ち込めば出会えるそれら。コメント欄には賛否両論が飛び交い、中々に賑やか。
現実に起こり得ないからファンタジーとして没入した際に起こり得る現実との齟齬が人それぞれで面白い。
俺からしてみれば、この世界の方がよっぽどだと思う。
魔法要らずじゃないか、全く。
確かに魔法は多岐に渡るし、此方でも便利に使えるのは存在するし、実際幾つか使っている。
でも、千人に一人しか使えない魔法なんかよりも、全員が等しく使える文明の利器の方がよっぽど魔法のようだろう。
そして、それらを当たり前として浸透させるこの世界の力の方が何よりも恐ろしく感じてしまう。
異世界転生、ちょっと不便な世界に摩訶不思議な能力を授かって生き抜くとか。
俺からしたら、それこそ、「何それ?美味しいの?」だ。
やはり人間って生き物は、ちょっと足りないくらいの状況で持ち合わせていないモノに憧れと生を感じるのかもしれないな、なんて。
スマホを置いて、テーブルのグラスを取り口元へと運ぶ。
未だに冷たいままの麦茶が、心地よく喉の渇きを満たしていくのを感じながら、
「ああ、幸せ」
と、扇風機の風量を一段階上げて、再びスマホを弄ることにした。
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