霊媒師〜柊詩乃のお仕事〜

らら

第1話 1人目

福岡県福岡市にある何の変哲もないビルの2階。

1階と3階は、福岡県でも有数の「旭法律事務所」が事務所を構えている。

その間である2階に私は今いる。


相当に悩んだ。ここに来るべきなのか。


金銭トラブル等であればすぐに上下に位置する弁護士事務所に飛び込んだだろう。

しかし、私が今抱えている悩みは弁護士に相談しても絶対に解決してもらえない。


ここに来る前にもいくつか相談を行ったところもある。

福岡でも有名なお寺や占い師、詳しそうなYouTuber。霊感があると言っていた友達にも相談した。


皆さんも、もうお分かりだろう。

私は今、幽霊に悩まされているのだ。



以前から志望していた大学に、2浪の末合格。今年の4月から大学1年生になった。

勉強に明け暮れた2年間を取り返すべく、サークル見学にも行きまくり、人が良さそうなバスケサークルに入った。

私を含めて男8人女7人の15人。新入生は私一人だけ。


結果バスケサークルとは名前のみの飲み会だらけのサークルだったのだが。

後々聞くと飲みサーの噂が広まりすぎて新入生が入らなかったらしい。


でも先輩はみんな優しく、2浪の私もすぐに受け止めてくれた。


そして大学生活初めての夏休みを迎えて、サークルで合宿をすることになった。

場所はサークルメンバーである2回生の筒井 結衣子さん(自称:霊感あり)おすすめの場所。


結衣子さんの地元(熊本県)であり、最近リニューアルされたキャンプ地。

中心地から離れている山奥のため、星が綺麗で、それにとても涼しげな場所。


決め手は近くにある心霊スポットらしいが。


朝に集合して、買い出し。お昼からはお酒を飲みながらBBQ。

辺りが暗くなると、心霊スポットに行き肝試しをする。

それが終わると花火をするというスケジュール。


私は中学・高校と部活にも入っておらず、合宿というものは初めてだった。

だからこそ楽しみだった。


合宿の当日。朝起きると、体がだるかった。

体温を測ると37.2度。

微熱。


ただ、楽しみにしていた合宿でもあったため、買い置きしていた市販薬をバックに入れ、家を後にした。



集合時間である9時の15分前に集合場所である大学の駐車場に着く。集まっていたのはサークルメンバー15人中5人。

サークル長の小山内 美保が声をかけてきた。

「来るの早かったね。まだ15分前なのに。」

15分前なのに?少し早めではあると思うが、そんなに張り切って早めに来たわけではない。

そんなことを考えながら阿呆な顔をしていたのだろう、小山内が言葉を付け足す。

「このサークルは遅刻する人が多いのよ。何時間も遅れるわけでもないんだけど、一番遅い人は30分遅刻とか当たり前なの。」

小山内は明らかにサークルメンバーに対して呆れた顔をしていた。

「だから今度からこういった集合がある時は時間ピッタシに来てくれたらいいからね。数分の遅刻なら遅刻ともみなさないわ。」

それに慣れてしまったら社会人になってから大変だなと思い、私はこれからも10分前行動をすることを決意した。


結局全員が集まったのは9時40分だった。

サークルメンバーの一人が口を開く。

「でも、いつものように実際の集合時間より早めに集合させたんでしょ?それなら丁度良くないですか?」

サークルメンバーの中で一番だらしない兵藤 純平だ。


遅刻者が多いことを見越して、サークル長が本来の出発時間の30分前を集合時間(つまり9時半が本当の出発時間)にしていたらしい。

「それがいつも通りになると意味が無くなるんだけど。しかもそれでも10分遅れてるし。」

サークル長はみんなには聞こえないくらいの声で呟いた。

が、すぐに気持ちを切り替えたようだ。大きな声でみんなに呼び掛けた。

「まあとりあえず皆揃ったんだし出発しようか」



15人という大所帯で移動はレンタカーで行う。

運転手は3回生サークル長:小山内 美保、3回生副サークル長:江藤 祐樹、もう一人の3回生副サークル長:稲富 菜摘 がメインで運転を行い、免許を持っているメンバーで順次交代をしていく手筈。



私は稲富 菜摘さんが運転する車に乗車することになった。

「稲富さんは日頃から運転してるんですか?」

ペーパードライバーの人の車に乗りたくない気持ちが早まってそんなことを聞いてしまった。

しかし怪訝な顔をすることもなく稲富さんは答えた。

「週に1回ぐらいは運転してるかな。私実家住まいだから家に車もあるからね。お母さんが運転好きじゃないから買い物とかにも私が運転して連れて行ったりするの。」


安堵。


稲富さんは少し天然のイメージであるため、絶対の安心感はないが、普段全く運転しない人よりかは幾分ましだろう。


稲富さんは私をこのサークルに勧誘してくれた人だ。

このサークルに入ることを決めたのもこの人がいたからといっても過言ではない。

同い年なのに後輩として私にこれだけ優しくしてくれる。


肩まで伸ばしたボブカットの髪は、光に当たると染めているかのように茶色く光っている。

本人曰く地毛らしいのだが、初めて彼女を見る人は髪を染めていると思うだろう。

ぱっちりとした二重の目は多くの男子を魅了しているが、昔から好きな人がいると断り続けていた。

こんな可愛い人が天然で優しいのだから無敵だ。そういう私も女性として惚れているのだから。


早速停めてあるレンタカーに乗り込む。5人乗りのコンパクトカー。

助手席には一番若手である私がナビ役として乗り込む。

後部座席に乗ったのは全員2回生であり伊藤・藤森・谷口の男3人組。

この3人は稲富さんを狙っているのがバレバレである。

名前は覚えているものの、3人ともマッシュルームカットに軽くパーマをかけた俗に言う「量産型大学生」のため、名前と顔が一致しない。

まああまり覚えなくてもという潜在的意識も働いているのだろう。


車を走らせると、稲富さんは安定感のある走りを見せてくれた。

微熱も相まって、道案内役にも関わらず少しウトウトしてしまったが、カーナビが優秀であったこともあり無事に目的地である「松風キャンプ場」についた。


ここに来たことが私「綾辻 小夜璃(あやつじ さより)」の大学生活が狂うほどの不運の始まりだった。






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