第23話
ユフィリアの研究室を出て、宿舎に戻る道すがら、俺の頭の中はユフィリアの言葉でいっぱいだった。まさか、冷静沈着に見えたのに、あんな感情を持っていたなんて。しかも、あれほどはっきりと言われるとは、予想だにしていなかった。彼女が研究に没頭している間も、俺の視線を感じて葛藤していたという事実に、俺の心臓はまだ高鳴っていた。
◇
翌日からのユフィリアの研究室での解析は、以前とは全く異なる空気感の中で行われた。ユフィリアは以前と変わらず、魅了スキルの解明に没頭している。しかし、その視線が俺を捉えるたびに、彼女の頬が微かに紅潮するのを俺は確かに感じた。俺もまた、彼女の一挙手一投足に意識が向いてしまう。
「健太さん、今日はこの魔術具を使って、あなたの魔力波動の特性をさらに詳しく調べます」
ユフィリアは、普段と変わらない口調でそう指示するが、その声には以前にはなかった、微かな甘さが混じっているように聞こえた。
「分かったよ、ユフィリア。でも、昨日……言ってたこと、あれは本気なのか?」
俺は勇気を出して尋ねた。どうしても、あの言葉が気になって仕方なかった。ユフィリアの手が一瞬止まる。彼女はゆっくりとこちらを向き、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「……ええ、本気です。私の言葉に偽りはありません。研究者として、データに基づかない発言はしませんから」
その言葉に、俺はさらに動揺した。データに基づいて「惹かれている」と言われると、どう反応していいか分からない。
「いや、でも、お前ってそういう感情とかあんまり表に出さないタイプだろ?だから、正直、俺はすごく驚いてて…」
ユフィリアは、微かに口元を緩めた。それは、今まで見たことのない、どこか柔らかい表情だった。
「確かに、私は感情を表に出すことを得意としません。しかし、健太さん。あなたの存在で……まるで、私の心を暴かれるかのように、激しい恋の感情の波を押し寄せてきました。もう、このあなたへの愛情を抑え込むことなんて、できない」
彼女はそう言いながら、俺を見つめる瞳には、研究者としての探求心と、そして抑えきれない熱い感情が混じり合っていた。その言葉は、彼女が自身の感情と向き合い、それを研究の一部として昇華させようとしていることを示唆していた。俺は、その知的なアプローチと、彼女の強さに感銘を受けた。
共に過ごす時間の中で、俺はユフィリアの新たな一面を目にするようになる。魔術の理論を語る時の彼女は、まるで別人のように生き生きとして、瞳を輝かせている。その知的な魅力に、俺は少しずつ惹かれていった。彼女の知識の深さ、そして未知の事柄を解き明かそうとする執念は、俺を強く惹きつけた。そして、時折見せる、人間らしい感情の揺らぎが、彼女をより魅力的に映した。
「もし健太さんを完全に解明できれば、私は歴史に名を残す存在となるでしょう」
ある日、ユフィリアがそう言った。
「歴史に名を残す、か……でも、ユフィリアがそこまで言うなら、俺も頑張らないとな」
俺は素直な気持ちを伝えた。
夜遅くまで続く解析作業の中、ふとユフィリアが疲れたように目を閉じた時があった。俺は思わず彼女の顔を覗き込んだ。彼女の額に浮かんだ汗を、俺はそっと指で拭った。
ユフィリアの閉じていた目がゆっくりと開かれる。その瞳は、やはり俺を見つめていた。そこには研究者としての探求心だけでなく、明確な愛情が宿っているのが、俺にははっきりと見て取れた。
「健太さん……あなたの存在は、私の心を、強く動かす……私は、あなたが欲しい」
ユフィリアはそう呟いた。彼女の声は、どこか甘く、弱々しく響いた。俺は、この天才魔術師が、理性では抑えきれないほどの感情を俺に抱いているという事実に、改めて心が揺さぶられた。そして同時に、俺自身の心もまた、彼女の知性と情熱、そして今見せる脆さに強く惹かれていることを自覚した。
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