第20話

リシアが宿舎に滞在するようになってからも、森の奥へと戻ろうとする葛藤は続いていた。しかし、俺たちとの生活、特にエリスとの再会と、ルナの無邪気な笑顔が、彼女の心を少しずつ変化させているのが分かった。リリアもセシリアも、リシアが少しずつ心を開いているのを感じ取っていた。


ある日の夕食後、俺たちが談笑していると、リシアが静かに口を開いた。


「ケンタさん、私……決めた」


その言葉に、部屋の空気が一瞬にして張り詰めた。エリスは心配そうにリシアを見つめ、ルナも食事の手を止めてリシアを見上げている。セシリアとリリアも、その言葉の続きを待っていた。


「森の民としての役目も、私にとって大切なものだ。森は私の故郷、私の全てだった」


リシアはそう言って、遠い目をした。その瞳には、森への深い愛情と、別れを惜しむような寂しさが浮かんでいる。


「でも……この数日、ケンタさんと、エリスと、みんなと過ごして……私、ここにも大切なものがあるって気づいた」


リシアはゆっくりと俺に視線を向けた。その瞳は、迷いを振り切ったかのように強く、そして温かかった。


「エリスが、こんなに笑っている顔を、私は今まで見たことがなかった。ルナの笑顔も、私を温かい気持ちにしてくれる」


リシアはそう言って、エリスとルナに優しい目を向けた。エリスは涙を浮かべながら、リシアの手をそっと握った。


「姉様……」


「そして、ケンタさん。貴方といると、私の心は穏やかでいられる。貴方の言葉は、私の心を解き放ってくれた」


リシアは真っ直ぐに俺の目を見て言った。その言葉に、俺は胸が熱くなった。


「だから、私……」


リシアは一度深呼吸をすると、はっきりとした声で告げた。


「ケンタさんのそばにいる。そして、この場所で、大切なみんなと共に生きていきたい」


その瞬間、エリスが感極まったようにリシアに抱きついた。


「姉様!嬉しい!本当に嬉しい!」


エリスは泣きながら、リシアの背中にしがみつく。リシアもまた、エリスを強く抱きしめ返した。


セシリアは静かに微笑み、リリアは涙ぐみながら拍手をした。


「リシアさん、ようこそ!これで、また賑やかになりますね!」


リリアが明るい声で言うと、セシリアも頷いた。


「お前の決断だ。歓迎する」


森の民としての誇りを持ちながらも、俺たちの仲間として新たな道を歩むことを決めたリシア。彼女の存在は、俺たちのパーティー『白銀の剣』に、また一つ、かけがえのない温かさと強さをもたらしてくれるだろう。賑やかになった宿舎で、俺たちの異世界生活は、さらに彩りを増していくのだった。

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