第16話

エリスと俺の間に生まれた絆は、日を追うごとに深まっていった。酒場での秘密の練習は続き、エリスは俺のために歌い、俺もまた彼女の歌声に魅了され続けた。


ある日の練習後、エリスは俺の目をじっと見つめてきた。その瞳は、決意に満ちて輝いていた。


「ケンタさん……私、決めたことがあるんです」


エリスは少し緊張した面持ちで、ゆっくりと口を開いた。


「どうしたんだ?」


俺が尋ねると、エリスは俺の手を取り、その柔らかな指をそっと絡ませた。


「私……健太さんのそばにいたい。ずっと、あなたのそばで、あなたのために歌い続けたいんです」


エリスの言葉に、俺の心臓が大きく跳ねた。彼女の真っ直ぐな想いが、俺の心に直接響いてくる。


「私の歌は、ケンタさんのためにあります。あなたを癒し、あなたを勇気づけ、あなたを幸せにしたい。だから……私を、あなたのものにしてください」


エリスの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは悲しみの涙ではなく、喜びと決意の涙だと、俺には分かった。


俺はエリスの手を強く握り返した。


「エリス…ありがとう。俺も、お前がそばにいてくれると嬉しい」


俺の言葉に、エリスの顔に満面の笑みが咲いた。彼女はそのまま俺の胸に飛び込んできて、強く抱きしめてきた。


「ケンタさん……!嬉しい……!本当に嬉しいです!」


俺は彼女の背中に腕を回し、優しく抱きしめ返した。エリスの温かい体が、俺の胸に抱きしめられる。



エリスは、その後、酒場を辞めた。


それからのエリスは、宿舎で俺やルナ、セシリアと共に過ごす時間が増えた。日中はルナの相手をしたり、宿舎の家事を手伝ってくれたりする。そして夜、ルナが寝静まった後、エリスは俺にその歌と踊りを披露してくれるのだった。


「ケンタさん、今夜も私の歌を、私の踊りを見てくれますか?」


エリスは俺にそう問いかけ、宿舎の部屋の真ん中で優雅に身を翻す。しなやかな体の動きと、流れるような歌声が、静かな部屋に響き渡る。舞台の上のエリスも魅力的だったが、俺のために歌い、踊る彼女は、比べ物にならないほど美しかった。


「ケンタさん、どうでした?」


歌と踊りを終え、少し息を切らしながらエリスが俺に駆け寄ってくる。


「最高だよ、エリス。お前の歌も踊りも、俺にとって一番だ」


俺がそう言うと、エリスは嬉しそうに俺の腕に抱きついてきた。


「よかった……!ケンタさんがそう言ってくれるなら、私、ずっと歌って踊り続けます!」



ルナは、エリスの歌声が聞こえると目を輝かせながら、彼女の周りをちょこまかと動き回る。時には、エリスが軽やかにステップを踏みながら歌うと、ルナも真似をして一緒に踊り始めることもあった。セシリアも、エリスの歌声と踊りに耳を傾け、どこか穏やかな表情を見せるようになった。


「エリスさんの歌も踊りも、本当に心に響きますね」


リリアが宿舎に顔を出した時、エリスの歌と踊りを見ながらそう呟いた。


「ありがとう、リリアさん」


エリスはそう言って、俺の腕にそっと触れてきた。彼女の歌声と踊りは、俺の異世界での生活に、常に安らぎと喜びを与え、彩り豊かな日常を紡いでいくのだった。

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