第12話

宿舎の中は以前にも増して賑やかになった。セシリアは相変わらず淡々としているが、ルナの世話をする姿はどこか楽しげに見えるし、リリアは毎日ギルドの仕事終わりに顔を出しては、ルナのおもちゃや新しい服を持ってきてくれる。そして何より、ルナは俺にべったりだった。


「お兄ちゃん、だっこ」


ルナはいつも俺の服の裾を引っ張り、上目遣いでそうねだる。俺が抱き上げると、小さな腕で首にぎゅっとしがみつき、離れようとしない。その温かさと重みが、俺の異世界での生活に確かな実在感を与えてくれた。


「お兄ちゃん、お話して」


眠る前には、必ず俺に絵本を読み聞かせろとせがむ。俺が読み始めると、ルナは目を閉じ、俺の腕の中で安らかな寝息を立てる。その寝顔を見ていると、俺の心に穏やかな安らぎが訪れる。


ルナは、俺の魅了スキルの影響もあって、俺を深く慕ってくれている。だが、それだけではない。ルナの無邪気な笑顔、俺に甘える仕草、そして時折見せる不安げな表情の全てが、俺の心を揺さぶった。この子を守りたい、この子の笑顔をずっと見ていたい。そんな強い感情が、俺の中に芽生えていた。



ある日の夕食時、ルナが美味しそうにスープを飲む姿を見ながら、俺はセシリアに切り出した。


「なあ、セシリア。ルナのことなんだけどさ」


セシリアは静かにスープを一口飲み、俺の方に視線を向けた。


「何か決めたのか?」


セシリアは、俺が何を言いたいのか、もう察しているようだった。


「ああ。俺、ルナをこのまま俺たちのところで保護していきたい。ギルドにも孤児院にも預けたくない」


俺の言葉に、セシリアは表情一つ変えず、ただ俺の目を見つめ返した。


「そうか」

「もちろん、大変なのは分かってる。でも、この子が俺に懐いてくれてる以上、俺が責任を持ちたいんだ。それに、ルナの過去を調べることだって、俺たちが一緒にいた方がやりやすいだろ?」


セシリアは少し考え込むように視線を落とした後、ゆっくりと顔を上げた。


「……構わない」


セシリアの言葉に、俺は思わず目を見開いた。彼女がこんなにもあっさりと同意してくれるとは思わなかった。


「まじか!?」

「お前が決めたことなら、私も反対はしない。それに、ルナが我々の元にいることを望んでいるのは明らかだ。私としても、この子の身元が不明なまま、どこかへ預けるのは気が引ける」


セシリアはそう言って、ルナの頭を優しく撫でた。ルナはセシリアの手の温かさに、穏やかな表情を見せる。セシリアの口から、そんな優しい言葉が出ることが、俺にはまだ少し不思議だったが、彼女の中にも確かな変化が生まれていることを感じた。


「ありがとうな、セシリア。助かるよ」

「礼には及ばない。だが、これからは三人で暮らすことになる。今まで以上に、責任は重いぞ」


セシリアはそう言って、俺をじっと見つめた。その瞳の奥には、俺への信頼と、そして、かすかな期待が宿っているように見えた。


俺はルナの小さな手をそっと握りしめた。ルナは俺の隣で、安心したように穏やかな表情を見せている。この子を守っていく。この異世界で、ルナの笑顔をずっとそばで見ていく。俺の心に、確かな決意が生まれた。

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