第7話
第7話
私は、スネサと去って行くファルとリィンの後姿を、呆気として見ていた。
「……ファルが、あれほど心配症とは」
我に返り、私はぼやくように言う。
聖魔界は、ほとんどのものが過酷な堕ちた理由があるゆえ、誰にでも黙秘権がある。
ファルは、うわべのつきあいだけで、自ら素性や堕ちた理由を絶対に明かすことはしない。
彼自身、騎士団の有力な若手で硬質、冷厳としたところが自他ともに名高い。
総指揮官である私にとっても、寡黙なファルは謎多き存在だった。
「信じられないですわ! 女性に触られることを何よりも嫌がるくせに、ファル自ら手を繋ぐなんて!」
「ファルは、過剰に潔癖なところあるからね。しかし、噂通りにファルが肩入れしている子がいたとは、びっくりね」
私は、ファルの噂話を度々耳にしていたが、総指揮官として彼の私生活の情報もあるていどは知っていた。
普段の彼がかなりの女嫌いであることは有名であり、私自身信じられずにいる。
だからこそリィンのことは、自分で真相を確かめるほど信憑性がないと感じ、放っておいていたことだった。
「それもあんな幼い子!」
「幼すぎるのは、特別な十二歳の成長期があるからでは?」
「それでも七歳から目覚めているならば、努力不足ですわ。実年齢も十歳以上くらいで、大人じゃないでしょうし。妹として見ていても、ファルに相応しくないですわ!」
聖魔界には、各世界からあらゆる種族が堕ちてくるので、不老不死も多く、実年齢は様々。
眠りの浄化の後、副作用で最低七歳から目覚めるのは、寿命や不老不死でも十代になったばかりなど、未熟で実力のないものがほとんどだった。
「スネサ、相応しいかどうかは別で、それはファル自身が決めること。彼にとって妹みたいだからいいのでは?」
「嫌ですわ! 優秀で男前のファルには、それなりの相手じゃない? 私もだけど、きっと彼が気に入っている女騎士だって、そう考えるはずでしょうし」
「それは一理あるけど」
「ねえ。シレナは違いますの?」
スネサは、不思議そうに私を見る。
私もファイルは実力があって性格的にも真摯で気に入っていた。
ファルがリィンを想う気持ちは、痛いほどわかっていた。
大事な宝物だからこそ、深い穴でも掘って、誰にも目に止まることがなく、何よりも安全な場所へ隠していたいことを。
「ファルが納得しているなら、あの子を過度に可愛がるのは、悪いことではないのでは?」
「詭弁ですわ! シレナは女として魅力的なファルをわずかな間だけであっても魅了して、独占したくないってこと?」
「スネサ、割り切った自由な性愛であっても、相手の同意がなければなりたたないのよ」
「そんなことは」
「あるわ。妹として見てるリィン以外にも、もとの世界に大切な恋人がいるって言った硬質なファルが、他の女性に靡くわけないでしょう? 無理は禁物だと思うわ」
私は、男問題で騒動ばかり起こしているスネサに忠言する。
「聖魔界って、どうあれ厳しい現実だから、少しくらい開放的な気晴らしは、誰にも必要ですわ。シレナ、違います?」
「そうだけど」
「男ならば特に、禁欲なんて絶対無理でしょうしね。きっとファルだって、うちは落とせるはずですわ。頑張らなきゃ!」
スネサがファルを諦める様子はなく、彼女は目を輝かせて、自分の両拳を握りしめている。
気に入った男性を射止めては、放置してしまうことを悪趣味としているスネサ。
今の相手として定めたファルのこれから先の苦労を感じた私は、やれやれと嘆息を吐いていた。
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