「影はどこに?」

人一

「影はどこに?」

「くそっ、母さんのやつ。なにもこんな暑い日に、お使いを頼まなくたっていいじゃんか。しかも男だからってこんなに持たせやがって…」

 もう必死に恨み言を吐いて気を紛らわさないと、本当にこの暑さにやられてしまいそうだ。

「お茶は…さっき飲み切ったんだったな…暑いけどもう少しで涼しい家だし我慢するか。」

 太陽はこちらなどお構いなしに殺人的な日光を浴びせてくる。なんたって暑すぎて蝉も鳴いていないほどだ。どうやら今日はこの夏一番の猛暑日らしい。

「あぁ暑い……」

 伸びる影に文句を言う口を動かす元気も無くなった頃、ようやく家についた。

「ただいま~母さん帰ったよー」

荷物の重さはどこへやら。クーラーの効いてる部屋へ飛び込む。

「あれ?全然部屋冷えてないじゃんか!母さん、どういうことだよ!こっちは暑い中買い物してきたんだぞ!」

 怒鳴るが返事がない。というより、人の気配がなぜか感じられない。

「おーい?母さん?」

 その声は空っぽの家に響くばかりで返事は返ってこない。

 ――まぁ入れ違いになったのかな?母さんが帰ってくるまで寝てようかな。エアコンなんてかけてないのになんか涼しくなってきたし…


 目が覚めると、すぐ前に泣き崩れる母親がいた。なにかにしがみついているようだが、よく見えない。

周りを見渡すと警察がいた。なぜここに警察が?

「おい母さん、どうしたんだよ…?」

 反応がない。泣き声で聞こえなかったのか?

「おい母さんってば!どうしたんだよ。なんで泣いてるんだ?」

 やはり反応が無い。しがみついている物をどかせばこっちに気づくか?

「ごめん、母さん…」 

 僕は母さんを泣かしている物に、触れることが出来なかった。いや物だけじゃない。目の前で泣く母親にもだ。

 ふと外を見るともう夕暮れで暑さも収まってきたようで、ヒグラシの鳴く声が聞こえてくる。だがこの部屋にはエアコンがかかってないようで、母さんを見守る警官たちは汗だくだ。

 だけどなんで僕は”涼しい”って感じてるんだ?


足元に目を落とすと、そこに”僕”の全ての答えがあった。

「あぁ…ごめん、母さん…」

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「影はどこに?」 人一 @hitoHito93

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