第23話 崩壊の前夜
轟音と共に、城の大広間が震えた。
壁に掛けられていた燭台が落ち、火花を散らす。
「……結界が、本格的に揺らいでいる」
ゼノが低く呟いた。
蒼の瞳が窓の外を映し、その視線の先で夜空が裂けるように赤い亀裂が走っていた。
「ふざけるな……!」
レオンは剣を握りしめ、紗羅を背にかばうように立った。
「紗羅を連れて出るつもりなら、この場でお前を斬る」
ゼノの口元がわずかに上がる。
「斬れるものならな。だが――この城に留まれば、彼女は崩れ落ちる瓦礫の下だ」
「黙れッ!!」
レオンの叫びは怒りと恐怖に満ちていた。
金の瞳が燃え、剣先がゼノをまっすぐに捉える。
私は震える足で立ち上がった。
「二人とも……やめて!」
声は掠れ、か細い。
けれど二人の男には届かない。
ゼノは一歩前へ出て、まるで私だけに囁くように言った。
「紗羅……ここを出るんだ。檻に閉じ込められて朽ち果てるより、俺と共に――」
「黙れえええ!!!」
レオンが吠え、剣が光を放ちながら斬りかかる。
火花が散り、鋼の音が大広間に響き渡った。
二人の剣がぶつかるたび、空気が裂けるような衝撃が走る。
私はただその場で立ち尽くすしかなかった。
「……っ!」
ゼノの刃がレオンの頬をかすめ、血が飛ぶ。
それでもレオンは怯まない。
「紗羅は渡さない……俺が守る!!!」
「守る? 違うだろう」
ゼノの声は低く冷たい。
「縛り、閉じ込め、恐怖で支配しているだけだ。――愛と狂気を履き違えている」
「俺の愛を侮辱するなッ!!!」
レオンが再び斬りかかる。
剣戟の音に混じって、城全体が大きく揺れた。
床に亀裂が走り、石片が降り落ちる。
「レオン! ゼノ! もうやめて! 城が……!」
叫ぶ私の声に、一瞬だけ二人の動きが止まった。
だが次の瞬間、天井から大きな石が崩れ落ちる。
「危ない!」
レオンが私を抱き寄せ、倒れ込むように避ける。
背中に衝撃音が響き、粉塵が舞った。
「紗羅……怪我は!?」
必死に私の顔を覗き込むレオン。
その瞳は狂気ではなく、ただ私を失う恐怖で揺れていた。
「……大丈夫」
震える声で答えると、レオンの肩がわずかに緩む。
だがその隙を、ゼノは逃さなかった。
彼の手が私の手首を掴み、鋭く引き寄せる。
「来い、紗羅」
その声は低く強く、逆らえない重さを帯びていた。
「離せええ!!!」
レオンが叫び、血走った瞳で剣を振り上げる。
私は――二人に引き裂かれるように、声を失った。
城は揺れ続け、結界は崩れ落ちようとしている。
けれど、それ以上に私の心こそが崩壊の瀬戸際にあった。
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