第22話 裂けゆく絆
暗く静まり返った部屋。
レオンの腕に抱きすくめられながら、私は息を殺していた。
「……紗羅。ゼノの言葉なんて忘れろ」
低く掠れた声が耳元を打つ。彼の指が私の頬を撫で、熱を帯びた吐息がかかる。
「お前の居場所は、俺の胸の中だけだ」
その言葉は甘くて、けれどどこか切実で――逃れられない鎖のように響いた。
胸の奥が震える。
レオンは私を守ってくれている。彼の愛が嘘じゃないことは分かってる。
でも、あの庭でゼノが囁いた「自由」という響きが、どうしても消えなかった。
「レオン……」
小さく名前を呼んだ瞬間、彼は私の唇を塞ぐように深く口づけた。
強く、痛いほどの口づけ。
そこには優しさよりも、奪い取るような激しい執着が宿っていた。
「……誰にも渡さない。お前の心さえ、俺のものだ」
荒い呼吸のまま告げるレオン。
その瞳は黄金に燃え、狂気と愛が混ざり合っている。
怖い――けれど離れられない。
私が少しでも彼を拒めば、彼は壊れてしまう気がして。
その時。
部屋の外から、低い笑い声が響いた。
「ふん……やはり閉じ込めていたか」
血の気が引く。
ゼノ。どうしてここに――!?
「貴様……!」
レオンが咆哮し、すぐに剣を掴み取る。
扉を蹴破るように開け放ち、ゼノが姿を現した。蒼い瞳が私を射抜き、口元に冷たい笑みを浮かべている。
「哀れなものだな、紗羅。愛と称して檻に閉じ込められるとは」
ゼノの声は静かで、しかし私の胸を鋭く抉った。
「黙れ!」
レオンの剣が閃き、ゼノに向かって振り下ろされる。
けれどゼノはひらりと身をかわし、逆にこちらへ歩み寄ってくる。
「選べ、紗羅。檻に飼われるか、それとも自由に生きるか」
――選べ?
そんなこと……今すぐには……。
心臓が早鐘のように打つ。
レオンの瞳は狂おしく、ゼノの瞳は底知れず冷たい。
二人の間で、私の心は引き裂かれていく。
「紗羅!」
レオンが私を振り返り、血を吐くように叫んだ。
「俺を裏切るな……! お前は俺のすべてなんだ!!!」
「――――」
息が詰まり、声にならない。
次の瞬間、窓の外から大きな衝撃音が轟いた。
城を包む結界が揺らぎ、石壁がきしむ。
「……始まったか」
ゼノが小さく呟き、視線を外に向けた。
「ここに留まれば、お前も共に崩れ落ちるぞ」
「紗羅を連れ出す気か!」
レオンが叫び、剣を構え直す。
二人の男が向かい合い、火花を散らす中で――私はただ震えていた。
心が叫んでいる。
どちらかを選ばなければ、この城も、この関係も、すべてが壊れてしまう。
けれど、私はまだ答えを出せなかった。
――胸の奥で、確かに二人の声が響いている。
「俺だけを見ろ」
「自由を選べ」
その狭間で、私は立ち尽くした。
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