第18話 閉ざされた扉

嵐のような出来事のあと、レオンは私の腕を乱暴なほど強く引いた。

「もう……外には出さない」

低く震える声。庭の花々も、夜風の心地よさも、すべて奪うように私を抱き上げ、彼は城の奥へと歩を進めた。


「レオン、待って……!」

必死に訴えるけれど、彼は振り返らない。

その背中からは、怒りと恐怖がないまぜになった熱が、痛いほど伝わってくる。


辿り着いたのは、私の部屋。重い扉が閉ざされ、音を立てて鍵が掛けられた。

「っ……閉めたの?」

問いかけても、答えは返ってこない。レオンはただ、私をベッドの上に座らせ、両肩を掴んで金の瞳を深く覗き込む。


「紗羅……あいつに触れられそうになった時、俺は狂いそうだった」

吐き出す声は、剣を振るう時よりも切実で震えていた。

「君を失うくらいなら、憎まれてもいい。……ここから、一歩も出させない」


「そんなの……!」

胸が痛い。彼の言葉は恐ろしくて、でも同時に、涙が出そうになるほど真剣だった。

「私……閉じ込められたくなんてないよ。外の空気も、光も……全部奪わないで」


「ダメだ!」

レオンの声が鋭く響く。けれどその目尻は赤く濡れ、必死に何かを堪えている。

「君が外に出れば、ゼノがまた現れる。あいつは君を狙っている……それが分かっているのに、どうして外に出せる」


その言葉は鎖のように重く私を縛る。

でも同時に――レオン自身が不安と孤独に縛られているのだと、痛いほど分かった。


「レオン……怖いの?」

そっと問いかけると、彼の大きな手が震えた。

「……そうだ。怖い。君があいつに奪われるのが、何よりも」

初めて、彼が弱さをさらけ出した瞬間だった。


胸が熱くなる。苦しいのに、どうしようもなく愛おしい。

私は彼の手をそっと握り返す。

「……私は、ここにいるよ。レオンのそばに」

「……本当に?」

子供のように縋る声。

「約束してくれるか? 俺を置いていかないと……」


「約束なんていらない。だって私は――」

言葉を紡ごうとした瞬間、強く抱きしめられた。

息が詰まるほどの抱擁。

「……信じられない。君が優しいから、なおさら怖いんだ。俺の知らない誰かに微笑むんじゃないかって」


耳元で響くその囁きは、囚われの宣告にも似ていた。

けれどその抱擁の熱は、どうしようもなく切実で。


「レオン……」

声を絞り出した時、ふと窓の外に気配を感じた。

黒い影が、一瞬、月明かりを遮る。

――ゼノ。


彼は城の外から、確かにこちらを見ていた。

蒼い瞳が冷たく光り、口元には微かな笑み。

まるで檻の中に閉じ込められた鳥を見物するかのように。


私は息を呑んだ。

嵐はまだ、終わらない。

むしろ今こそ始まったばかりなのだと――胸の奥で悟った。

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