第15話 囚われの誓い

ゼノの手が窓枠にかかり、ほんの一歩、室内へ足を踏み入れた。

その気配は、闇の獣のように静かで鋭い。


「紗羅」

名を呼ぶ声は、不思議なほど甘やかだった。

胸の奥を掴まれるようで、思わず息を呑む。


――けれど。


「二度とその名を口にするな!!」


レオンの剣が月光を裂き、ゼノの目前で火花を散らす。

その金の瞳は、狂おしいほどに燃え上がっていた。


「紗羅は俺のものだ。お前ごときに触れさせない!」


剣を握る手が震えている。怒りか、恐怖か――いや、私を失うことへの必死の想い。


ゼノは薄く笑い、後退する気配を見せなかった。

「お前の“もの”だと?……それは彼女が望んだ言葉か?」


「……っ!」

レオンの顔が歪む。

私はとっさに、彼の手を掴んだ。


「レオン」

強く握り返すと、その肩がびくりと震える。

「私は……あなたに守られてる。だから、怖くない」


自分でも驚くほど自然に、言葉が口をついて出た。

レオンの瞳が見開かれ、次の瞬間――私を強く抱きしめる。


「……約束しろ。俺から離れないと」

耳元で掠れる声が落ちる。

「……うん」


その答えに、レオンの腕はさらに強くなる。

まるで永遠に閉じ込めようとするかのように。


ゼノはその様子を見て、口元に皮肉な笑みを浮かべた。

「囚われの誓いか……。それが愛と呼べるのなら、好きにするがいい」


そう残し、彼は夜の闇に姿を溶かした。


――静寂が戻る。

けれど、私の胸の奥には、確かに彼の声が残っていた。


「……紗羅。俺だけを見ろ」

レオンの呟きが、熱を帯びて心に沈む。


私は目を閉じた。

囚われるような愛――それでも今は、不思議と怖くなかった。

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