第14話 蒼の瞳の囁き
その夜。
広すぎる城の一室で、私は窓辺に立っていた。
月明かりだけが頼りで、静けさがかえって心を落ち着かせない。
――あの人、ゼノ。
冷たい笑みと、どこか人を惹きつける気配。
レオンの険しい顔を思い出すと、二人の間にただならぬ過去があることは明らかだった。
「……眠れないのか」
背後から声がして、思わず振り向く。レオンが立っていた。
「えっ……起きてたの?」
「お前を一人にするわけないだろう」
そう言って、彼は当然のように私の隣に立ち、外を見やった。
「ゼノは……」
問いかけた瞬間、レオンは私の肩を抱き寄せた。
「名前を出すな。あいつにお前の声を届かせたくない」
低く囁くその声に、胸がきゅっと縮む。
だが――。
「そうか。俺の名を呼ぶな、か」
不意に、窓の外から別の声が降りてきた。
驚いて振り返ると、月光を背にした人影がいた。
ゼノ。蒼の瞳が、今度はまっすぐに私だけを見ている。
「どうして……!」
レオンが即座に剣を抜いた。
「侵入者め……!」
「落ち着け。俺はただ……彼女に会いに来ただけだ」
ゼノの声は冷たくも、甘やかに響く。
「紗羅、と言ったな。……お前はこんな男に縛られて、息苦しくはないのか?」
「黙れ!!」
レオンが怒声を上げ、私を庇うように前に立つ。だが、ゼノの言葉は鋭く心に刺さった。
「自由を与えられない男に、愛を語る資格はない」
ゼノの視線は、私の瞳の奥まで覗き込むようで――逃げられない。
「来い、紗羅。俺なら……お前を閉じ込めたりしない」
一瞬、空気が止まった。
レオンが激しく私の手を掴む。その力は痛いほど強く、必死だった。
「行くな! お前は俺のものだ!」
城の静寂が、三人の呼吸だけで満たされる。
嫉妬と挑発。
――夜の闇が、ゆっくりと三角関係の炎を燃やし始めていた。
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