血の雨。

taiyou-ikiru

第1話

 血の雨が降ってきた。塗れるといけないので傘をさす。木々が密集してどよめく様に風は辺りに、ごお、と鳴きだす。親戚の家に呼ばれた矢先にこれだ。つくづく僕はついていない。

 幻想的にも、破滅的にも見える鬱々としたいやぁな床にはびこる血の流れを見て思う。単に僕はこれを忌諱している。別にこれといった確かで言語的にできる理由があるわけじゃなくて、そういうものじゃなくて、単に生物的逃避と、危機を感じているだけだ。

 ああ億劫だ。

 ああ億劫だ。

 心で反芻して繰り返してみたり。単純に心は晴れない。だけれどバス乗り場にいくために歩かねばならないので意を決して、血の浅いかのような海に乗り出してみる。さーさーと靴で、蹴り模様が雪崩れる。その様子をしかと目にしながら  僕はただ考えたくないようにしながらしっかりと考え歩く。

 血の雨は止むことなく僕と、森と、床と、広いところ、そこを照らすように落ちて、眩しがっている。

 

 


 バス待ちの看板と雨宿の下には先客がいた。止むことなく降り続ける若干の豪雨に隠れながらもそこに座ってただ見つめている。しかしこちらに気が付いたようできゅっと首を傾けて興味なさげに見てくる。そしてまた首を戻して元の方を見る。そこには何があるのだろう。僕はそう思い、そいつの目視の方向を見る。そこはただ森だった。何の変哲もない森だった。面白みのなく映ってしまう。ただこちらからは見えない景色なのかまだその正体は定かではない。傘を丁寧に外側に向け、一応の血をさっさっさと外にやり、プラスチックでできた使い捨ての囲みに入れる。

 そして(今気づいたが)男の横にさりげなく座り、男が見ていた方を向いてみる。子羊だった。しかも血に塗れて毛がしっかりとも吸っていて、動きづらそうにしている。端的に言うと可哀そうで、なんとも言えない気持ちになる。ただ僕らは見ることしかできない。子羊は森の結構近くとも遠いところでとても助けられる位置にはいない。ただ憐れみを思うことしかできない僕が憎いが仕方がない。僕はあの子羊を助けることができないのだから。すると、

 「ほら、あれ、動物なんですよ。」

 そう言ってきた。僕はそのあるかもわからない真意を汲むことができなかった。当たり前だ。急に話し掛けたと思ったら動物だ。見れば分かる。、、なんて返そうか。

「、ええ、そうですね。動物ですね。」

「、、、」

「、、、」


 会話は続かなかった。単に話す話題が欲しかったのかそれとももっと深い深層に気が付いてほしいのか定かではないが、会話下手であることは伺える。だから僕が会話を紡ぐことにした。

「単に可哀そうだと思います。あの羊は。小さいのに。」

「ええ、でも仕方ありませんよ。そういうものですから、あの子羊には同調できる仲間も証しもない。ただただあそこでどうにもできずに困るだけ。ただそれだけなんですよ。」

 その思想性にはどうにも共感しがたい内容だった。それは単に突き放しだし、淡白で薄情だ。でも僕の考えは単なる偽善である。だからこそ僕は言葉にも考えにも詰まった。

「、、そうかもしれません。でも僕は少なくともあの羊に同情して、尊敬して、それで思っている。それで僕は満足です。ただ羊がどう思っていようと。」

「非道いですね」

 そうふふっと笑い、彼は目を細めた。「僕ね、この景色がね、好きなんですよ。」そう言うので。奇妙さをたたえるが如く「へぇ」と返す。

 「僕は。多分もっと穏やかで優しい人なんですよ。昔からそうだった。でも都会の嫌煙した雰囲気からちょっと侵されて、混ざった。ですからいい反面教師になっている。この景色はとても綺麗でまぶい。」

 単に性格が悪いと思った。変なやつだと思った。だけどそれは声に出さずになんとなく虚偽の「へぇ」を出して、答える。十八番だ。

「それでね。話は変わりますが、僕にはね。娘がいるんですよ。娘はこの景色が大っ嫌いだそうで、いつもね。」

「惚気ですか。」

 そんなことを言うが、

 こんな景色にこんな待ち時間。話を聞くことも悪くない。そう若干楽しみにしている心を感じて、「楽しみですよ?」となぜに疑問形になってしまったが伝える。

「それでね。娘はこの景色をみると傘を二つ持つんですよ。自分用とぬいぐるみ用だって。小さい体にね。それがどうしようもなく愛おしくて、でも僕はね。この景色を単に好きになって欲しいんですよ。僕の囁かで可愛らしい願いです。」

 本当に単なる惚気話だが僕は納得できない。だから僕も僕の気持ちをこの人に綴ってみようか。

「僕にもね。娘がいるんです。偶然ですね。でも多分年はこっちの方が上だと思います。その子はこの血の雨を嫌いだって言うんです。そのもちろん僕もです。ただ音がとかなにかがだめだとかではなくて、ただ辛いのです。見ていると辛い。でも僕は好きだという気持ちも特に理解できる。確かにこの景色は幻想的で理由は違えど少しは存在していると思うのです。だから娘さんの想いも尊重してあげて欲しいです。」

「そうですね。私としたことがすこし狭量でした。」

 男は首を上げ、

 ははっと軽快に楽しそうに笑うもので、僕もつられて笑ってしまう。僕は大した理由もないけれど。ただ少し分かち合えたことが嬉しくて、笑ってしまう。この時間は好きだ。

 そうやって二人でささやかな惚気に笑いあう。


 子羊は元気よく登ろうと頑張る姿が健気に思う。ただ容赦なく血の雨は腕を振るって僕たちに無情の様で分け与える。僕はそんな景色を見ながらただすこしリラックスしようと腕を手で組みながら伸ばす。ん~~~~~。気持ちがいい。こんな景色に反して僕はただ生きている。無情でも生きている。ただそのままに頑張ることもしながら生きている。その様子に男も姿勢を崩しながら、少し体勢を整える。

 会話は途切れるが嫌な雰囲気と言うものはただ少しも漂っていない。血の雨の情景に反して、ここは些か平和すぎる。ただそれでも風は寒いし、雨は靴にとどこおることなくゆったり落ちる。とりあえず遠くを見てみる。理由はない。遠くにはただ墓があった。色んな墓。それはなんだか怖かった。子供のころから怖かった。現実いつか人間はああ言うところに埋まるわけであることも怖かった、それにただ存在が目視されないことへの畏怖と恐れが混じって、複雑な情景を壊したかった。だけれど今はちゃんと付き合えるようになってその情景も僕の鮮麗な一部となり、いる。その景色はただ黒にまぶれたかすかな灰色と黄むらさきが垂れるみたいに点在して混ざり合ってガラスに覆われている。多分そんな場所なんだ。心の内を分かり合えた時の気分と言ったら、言葉に表すことがもったいない。

 少し重ね合わせてみる。ガラスの情景と墓。こう見ると墓は意外と繊細で思っているより綺麗で畏怖が薄れる感じがする。ただ歴史と地史を尊敬と敬意が感じる。ただ畏怖と言っても尊敬の畏怖かもしれない。そういうものになっていた。

 とすると墓の近くに(おそらく)子供がただ独り穴を掘っていることに気が付いた。それを少しばかり面白いと思ってしまって(ものすごく失礼ではあるが、もちろん他のことも感じてはいた。一応名誉と起訴のため)男に伝えた。

 「あ、あれ見てください。遠くの墓に人がなにか掘ってますよ。傘を指して掘ってますよ。」

 指を指す。そこには墓嵐の   幽かに幻影していた。僕は単なる話種と共有の意思を持って言った、単なる軽い側のことであったがどうやらその意思は伝わったことを多分思ってから、男の方を見ると、

 ただ悲しそうに見つめるので。ただ不思議に感じたすると。

「おーーーい頑張れーーーーー」

 そう言い、立ち上がり、手を振る。僕は突然に焦燥が一瞬駆けて消える。ただその様子に(幼心か、それとも共感か、果てには興味か)感化されて立ち上がり負けぬと大声で言ってみる。


「おぉーーーーーー~い頑張れ~~~~~~~」

 男の方を向くが男はあの少年にぞっこんのようで僕のことなんか気にせず「おーーーーーーい頑張れーーーーーーー」と叫ぶ。聞こえないだろうによくやるなと達観する気持ちもあればこの2人だけの祭りを愉快に  たいという祭り心もありて、とりあえず「頑張れ~~~~」と手を振ってみる。

 もちろん少年は僕たちを気にするわけがないし、見えないであろう。何の反応も返さぬままただひたすらに掘っている。


 この世界にはたくさんの人に思想に考えに気質に性格に好きなものに      、、、 まだまだあるだろう。

 墓嵐もいる。ただ醜く様を捨ててそこに居る。ただ居る。ただその姿は気高く美しい。ただ美しい。そんな墓嵐に僕は元気をもらえる。強かな精神に間違った事柄その反芻する事項に僕は


 男は応援をすることをやめてただ座る。横顔は朗らかな悲しみの表情と安どのような嬉しさ?か喜び?が交ったような独特なかおを形成している。それに胸がなんだか打たれるような押しつぶされるような。独特な感じになる。

 ただその顔にはなんともいえない哀愁と納得ができない顔になって佇んでいた。


 

 すると遠くからバスの力強い音が小さくも確実にそこらを駆けて響いてくる。向くと、ただ小さいしかくが段々とまるい光と共に大きくなっていくことに気が付く。それは結構に美麗で弱い景色であった。確かに血を辺りに散らしながらもしっかりとこちらへ来る。目的を持ってくる。森と血が風と倫理に常識だとかに揺れ、まき散らされる。至って迷惑であるが、そういうもの。倫理と常識に吹かれ、僕たちは生きている。きちんと血の感触は雨に濡らされ、ただ待つ。バスの接地面との擦る大きな音と小さい排気音が両方重なり合って経常化し、聞こえる。

 バスは僕たちをめがけて駆けてくる。


 鈍く赤い光が僕らを丁寧に透度に照らす。バスはきーーと止まり、ドアが受け入れる態勢でしっかり開く。


「乗りましょう。」

 そう言われると男は僕を見ながら抜かそうか決めるように待っている。もうそこにはさっきの哀愁があった顔には見えない。もっと整理した人間の顔になっている。それになんだか安心して、僕はさっと立ち上がり、バスの    気味な階段に昇り、お金を適当に払い、一番奥らへんのところに座る。とっとクッション性は低くも温かさと毛の感じを兼ね備えた慈しむべき椅子の感触に慣れる。バスの中には特有のエアコン臭なのか、機械が混じった匂いを漂わせている。結構好きだ。そして男もてきとうな位置に座り、僕に話しかけるということはしなかった。ただ別に淡白とか嫌気だとかそういうわけではなく、そういう人なんだろう。この人はなんとなくも少しいただけで僕は想像がついたから良かった。


 バスは微妙に差異かのように揺れ、安心感のリズムを保っている。

 窓の外から見える血の海はなんだか他人事で、でもガラス一枚隔てた向こうにあるということは凄いことだと思う。ただガラスに綺麗な赤が落ちることを観察せしめていると、ドアがつまらなそうに閉じて、発進の揺れが始まる。

 暖かい中に歓喜のゆったりをもらう。最後にこの景色を見てみる。遠くに寂しそうに墓は居る、そして森を抜けて、子羊が頑張って移動している。雨はまだまだ降り続けている。床を見てみる。血に溢れかけてただコップの表面張力みたいに器用に(そこまで器用ではなく、落ちてはいた、  が)そこにはまだまだ居た。


 ただ


 バスは走り出した。止まることなく走り出した。血海を駆け巡りいずれ僕の家にもたどり着くであろう。バスは走り出した。止まることなく走り出した。






 そして誰もいなくなった雨宿に血に塗れた一人の少年が森から伺うように出てきた。そして独占できる椅子に一人座り、寂しげに血の景色を見張る。



 木に引っ掛かる血の溜まりを見て、言う。



「    ひどい。」

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血の雨。 taiyou-ikiru @nihonnzinnnodareka

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