思ってたんと違った
中村朝日
千香子と尚美
だらだら見る深夜のテレビって最高じゃない?
「ねーチャンネル変えていー?」
「ん。てかYouTubeつけてよ」
「おけ」
私は、ポテチの袋を踏まないように、ファイヤースティックのリモコンを取りに行く。
別に深夜番組が特別好きとか、面白いとか、そういうのじゃないのだ。深夜だから、って良さがある。深夜のラーメンとか、深夜のポテチとか。深夜のマジックってハンパない。今まさにそれにかかってる訳だが。
「何見るの」
「んー」
ベッドから手をはみ出させて、テレビに向ける。
質問を向けた先の恋人は、珍しく何も食べずに、床に座ってベッドに背を預けていた。珍しくというのは違うか。いつも、夜だらだらすると、何かしら腹に入れないと気が済まないのは私の方だ。
「ジャズBGMがいい。あ、それ」
あまり選ばないチョイスだ。尚美が音楽を好きなのは知ってはいるけど、わざわざテレビに映してBGMを聴くタイプではない。むしろイヤホンとか、音と耳との距離が近い方を好んでいるイメージがある。
「どしたの、なおちゃん。めずらしーね」
尚美の方を見やると、なんだか煮え切らない様子でこちらを見上げてきた。かわいい。え、本当に珍しいな。かわいい。
「千香子」
「うん」
「最近運動足りてなくない?」
「ヴッ」
「え、死なないで」
クリーンヒットしてしまった。私に。ダイレクトアタック。私のお腹に。
尚美が可愛くてふわふわ浮かれていた気持ちが、今の一瞬で爆散した。
「そ、それで……?」
「いや別に。そろそろ身体動かしたいなーって」
ちら、とこちらを見上げてくる姿は、壊滅的な可愛さだ。でもそれを上回るほどのショックを今私は受けている。……上回るか? 同じくらい? 否、尚美はかわいい。尚美がかわいいことを、何かと比べてはいけない。
「えっ待って、それでYouTube?」
「ん? いや……」
「そーゆーことかあ! いやマジで分かってるんだよ!? 私のお腹がヤバいことになってることくらい!!」
「お腹はまあ……可愛くていいんじゃない?」
「そーゆー問題じゃあない!」
バン! とベッドを叩くと、私は身を起こした。
探しましょう。折角誘ってくれたのだから。尚美のためにも。そう、尚美のためにもね。これは決して私のお腹がどうとかそういう話ではない。尚美が身体を動かしたいと言ったから、そう、そういう訳なのだ。
「……ゎ…………」
「え? なんて言った?」
「別に。何も」
なぜだかちょっと不機嫌になってしまったかわいい恋人のために、私は必死になって動画を漁った。明日には二人でムキムキになってるかもしれない。
「よし! 見っけた! これやろ!」
「…………。はい」
思ってたんと違った 中村朝日 @asahi_novels
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