年明け

 …もうすっかり年明け間近。こたつに入りながら年末の番組を観ている。

 年明けより、卒業がまじまじと近づいているという方が少し興味を持つ。

 今年の冬休みは去年一昨年と変わらず優太としか遊んでないな。と。小学生最後だし真希ちゃんを誘えば良かったのにな。と、少し後悔した。

 あの日一目惚れした真希ちゃんとは特に進展はない。でも変わらず仲良くしている。時に意識している訳では無いけれど、美穂と話す時間が前より減った気がする。

 …いや。特に意識してないとは言いきれない。新しく好きな人が出来てしまった僕にとって、美穂の存在はなんとも気まずいものであった。単に元好きだからという訳ではなかった。真希ちゃんと夢を語ったあの日から、何となく美穂と話していると、気まずいような、そんな気持ちが出来てしまっている。

 今年は非日常まみれで楽しかった。

 美穂のいじめ。このことを僕が知っていることを知られてはならない人間が二人になってしまったし。少し罪悪感を感じるが、非日常が続く感じがたまらなく良い。罪を隠して生活するのが後ろめたくて気持ちよくて。

 そんな気持ちを振り返りながら餅を頬張った。


 特に生きるのが疲れたという訳でもないが、カウントダウンの瞬間に飛んでそのまま時が止まればいいのに。って毎年思う。


 なんてね。


 時計が二十四時を迎え指した。そして数秒経った頃、優太と美穂が【あけおめ】という連絡をくれた。二人とも違う絵文字を使って。

 僕は順番に【あけおめ】と、同じ文脈を返していった。

 しばらくして真希ちゃんからもメッセージが届いていた。

【あけましておめでとう。叶君と出会えてよかった。今年もよろしくね。】

 というものが。僕は二文にわたって、新年の挨拶と、よろしく。という平凡な内容を返した。


 そして親戚とワイワイした正月ムードが明け、登校日を迎えた今日。

 今日は凍えるくらいの温度の風が度々吹いている。しかし今年は去年のように雪は降らないのかな。と、少し嬉しくなる雪に想いを告げながら、登校した。

 教室に入ると優太が真っ先に声を掛けてきた。

「おはよ。あけおめ」

「うん。あけおめ。」

 少し謎の間が空き、優太は「正月の後にある特大行事といえば??」と聞いてきた。「節分?」と答えるとにっこりと笑って優太は言った。

「バ・レ・ン・タ・イ・ン!!!!」

「は?」

「バレンタインだよバレンタイン。」

「‪”‬まだ‪”‬一ヶ月もあるんだよな…」

「‪”‬もう‪”‬一ヶ月しかないの。わかる?」

 優太は何気にこういうイベント事に敏感すぎる。年々、僕と優太はお母さんを含め貰うのは二つ。彼の今年こそは!と言う言葉も何度聴いたことか…

「いやぁ颯太は今年も二桁かな〜」

「颯太はモテるからね。」

 颯太は勉強はそこそこで運動神経抜群で、裏表なく、男女共に好かれるようなタイプ。おまけに今風なイケメン。

 僕や優太はそこそこ話す程度だが、愛想が良くて、話していて気持ちがいい。

 …中野菜月が好きだったのって確か颯太だったよな。

「美穂は今年もくれるとして…菜月ちゃんは会えないからな〜」

「中野菜月と優太そんなに話してる印象なかったけどそんなに仲良かった?」

「…普通くらい。まぁーそれでも好きなものは好きなんだよね。」

 優太は恋話の合間に付け加えるように僕の話題を出して、「…そのあんまり話したことない人はフルネームで呼ぶ癖、ずっと気になってたんだけど普通に苗字とかじゃダメなの?」と聞いてきた。思い返しても特に意識している訳でもないので「いや無意識に言ってる。今更治らないから気にしないでくれよ。」と僕は言った。

 優太は「わかったよ。なーんか違和感なんだよな」と首を少し傾げて返答し、話を進めた。

「叶は真希ちゃんから貰えるといいね〜」

「まぁね。でも両思いな訳ないし。」

 正直そこまで感心のない僕とは裏腹に、熱意に満ち溢れたように優太は話し続けた。

「両思いじゃなくても仲良いんだからくれる可能性あるだろ?美穂とか毎年俺達にくれるじゃないか。」

「美穂は六年間つるんできた仲だからな〜」

 一瞬二人で黙り、その時風が吹いた。風が吹き始めたタイミングと同時くらいに優太は真顔で聞いてきた。

「で、真希ちゃんからバレンタイン貰いたいの?」

「そりゃあ…ね?」

 優太が天井を向いて息を吐いて思い切り勢いをつけてこちらを見たかと思うと「だよな!」と楽しそうな顔で見つめてきた。

「一つ言わせてもらうよ。真希ちゃんは優太の事好きだと思う。」

「…そっか。」

「いや待て。源情報は確実だと思うんだ。」

 内心「源か。」と思いながら僕は軽く流した。源は他クラスや先生に関しての情報屋。だけど七割当たったことがない。源が小テストが明後日あると自信満々で言っても次の日だったなんてこともあるし。

「思うだけでしょ?」

「確実だと思うからそう思うんだよ!!!」

「何それ。」

 すると優太は勢いが少し収まり、開く教室のドアの方にそっと視線をやった。そして小声で「噂をすれば真希ちゃん来た…!」と言って席に戻った。相変わらず嵐のような奴だな。と思いつつ、なんだかんだ優太と話すのはとても好きだ。真希ちゃんが僕の隣の席に座り、「おはよう。それと、あけましておめでとう。」と言った。僕もすかさず「あけましておめでとう。」と返した。その光景を見て、さっきの話もあってか優太は僕に目を合わせて、頑張れよ。とでも言いたそうなウィンクをした。

「今年の冬も寒いね〜」

「ね。」

 それから朝の会が始まるまで彼女の冬の思い出を聴いた。「叶君はどんなことをしたの?」と聞かれたけど、僕は出かけた訳でも特別なことをした訳でもないので「変わらず家でゴロゴロしかしてないよ。」と言った。

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