綺麗な球

 高度な文明を持った種族に現在流行している遊びがあった。


「パース、お前のアストロニウムなにか変じゃないか?」


「あ、気付いた?そうなんだよねぇ。見てくれよこれ!」


 関節が無さそうな腕を伸ばし、様々な色をした直径10cmほどの球体を、


 棚に陳列している中のひとつを取って見せた。


 超高倍率レンズで球体を覗き込むと微かに蠢くものが見える。


「お、お前これ!?生物が……文明が出来てるじゃないか!」


「びっくりしたろ?俺も気付いた時は身体が波打ったぜ」


 タコなのかイカなのか、ゼリーのような身体を震わせて見せた。


「あれみたいだな、えっと、ラニアケアってとこにある地球?みたいな感じだな」


「キアロ、お前ってかなりマニアだよな。でも、その通りだ」


 パースはホロタブ(ホログラムタブレット)を操作してキアロに見せる。


「今度行ってくるんだ!」


「地球にか?」


「そう、俺のアストロニウムと比較したくてさ」


「次の課題はそれを提出するつもり?」


「うん、こんな惑星が出来るなんてありえない確率だからね!俺、有名になっちゃうかなー!」


「まさか、遊びで作ったアストロニウムに生命体が誕生するなんてな。みんな驚くぞ」


 数日後、帰って来たパースの体は、色がくすんでいるように見える。


「どうした?そんな暗い体して。落ち込んでるのか?」


「ああ……だいぶね」


 パースは落ち込んでいる理由を話す。


「え?!あのアストロニウム無くしちゃったの?」


「そうなんだ、いろんなところを比較しながら交互に見てたら、うっかり落としちゃって……」


「それは、絶対に見つからないだろうね」


「ああああ——あんな奇跡、もう二度と見られないようーー」


「——となっております。原因不明の地震が各国で発生したことについて、情報を集め解析中とのことでした。続きまして、今日の天気は——」


 ここは、どこか地球に似ている惑星。


 人々は、大きく連続する地震に不安を募らせていた。


「今までこんなこと無かった!地震以来、気温まで高くなってる」


「今まで無かったのが不思議なくらいだよ。このくらいあっても普通のことだって」


「もうこの世は終わりなのかもしれない。異常気象……天変地異……」


「何かの前兆……前触れだよ……怖い、怖いよ……」


「ビビりすぎだって」


 その後も度々地震が発生し、気温の変化も著しかった。


 暑くなったかと思えば、急に凍えるような寒さになる。


 何を着て外出すればいいのか分からず、天気予報も当てにならず、


 社会は混乱していくばかりであった。


 ——そして、


 この世の終わりなのだろうか?


 何かが割れるような音が聞こえた。


 次の瞬間、全てが暗く見えなく——


 パースが落としたアストロニウムは、とある少年によって拾い上げられた。


「みんな見て見て!めっちゃ綺麗なビー玉拾ったぞ!」


「どれどれー?」


「わー!黒いけど、なんかキラキラ光ってる!」


「きれいー!」


 少年は、そのビー玉に太陽を当てて見たり、投げたり、振ったりしてみた。


 中の黒いのは砂時計のようにゆっくり動いている。


「何が入ってるんだろ?」


 気になった少年は、お風呂に入れてみたり、冷蔵庫で冷やしたりして実験していた。


 親に聞いても、中身については分からなかった。


 ビー玉を眺めるのにもそろそろ飽きて来てしまった少年は、中身を確認することにした。


「いいかみんな?やるぞ?」


「何がはいってるんだろうな」


「砂金とかいうやつが入ってるんじゃない?」


「いくぞー」


 少年は、地面に置いたビー玉に石を叩きつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る