乗っ取り

 僕の名前はフランケン、よく覚えておいてくれたまえ。


 僕は、所謂お金持ちだ。まぁ、僕の親がお金持ちなんだけどさ、僕のパパはロボット事業で成功し、一代で大金を稼いだ。ママは有名モデルで、美男美女の夫婦として知名度もある。


 僕はそんな血を引いているからね、顔もカッコいいからモテて困っちゃうんだ。色んなことを経験させてもらっているよ。どれが自分に合うか分からないからね。習い事もそうだけど、何でもさせて貰えるし、何でも買って貰える。


 でも、自分が熱中できるものは見つからなくてすぐ辞めちゃうんだけどね。簡単に手に入るって羨ましがられるけどさ、選択肢が多いと逆に難しいんだよね。


 これしか買えない、これしか習えないってなら、それを頑張れば良いだけだから楽で良いよね、迷わなくて。


 パパとママの子供だからね、親からはもちろん、周りからの期待もあって毎日大変だよ。


 こんなこと、わざわざみんなには言わないけどさ……何もしないで、日々を過ごしたいって思うこともあるんだ……


「こんなことお前にしか話せないよ、聞いてくれてありがとうな」


「いえ、あなたの役に立てたのなら私も嬉しいです」


 そう返事してくれたのは、パパの会社で開発中の家庭用アンドロイドだ。試験運用のため僕に一体預けられている。


「今日も習い事ですか?」


「そうなんだ……行ってくるよ」


「大変そうですね。いつか私があなたの助けになれればと思います。いってらっしゃいませ」


 アンドロイドには、人間の暮らし、行動パターンを記憶させてから、それに対してどう行動するのが適切かを判断させる。そのために、基本となる生活を記憶させる目的で、僕と生活を共にしている。


 僕は、自分の努力を鼻にかけたりしない。でも、努力しているからこそ、成績だって優秀だった。最初は、みんなが凄いと褒めてくれたけど、結果しか見てもらえなかった。いつしか、フランケンの成績がいいのは『普通』になっていて、誰も褒めてくれなくなった。


 相手にされなくなっただけならまだいい、最近は生意気だと喧嘩を吹っかけてくる奴らまで現れる始末だ。


 学校にも、家にも、落ち着ける場所が無くなっていた。


 ところが、このアンドロイドが一緒に来るようになってから、また僕の周りは変わった。


 どんなロボット?家ではどんなことしてるの?みんな興味津々で質問が絶えなかった。


 最初はミスばかりが目立つアンドロイドに、みんな笑って楽しんでいた。バカにするやつもいた。でも、黙々と一生懸命に頑張るあいつを見て、いつしか罵倒や中傷は、声援に変わっていた。


 テストは常に一位である。アンドロイドなのだからこれは当たり前だけど。


 成績がトップじゃなくなった僕は、周りと馴染めるようになっていった。ほとんどの話題はアンドロイド中心なのだけれど……それでも、蔑ろにされるよりは良かった。


 周りの友達は、僕のアンドロイドだから、フランケンのロボや、そのままロボ、なんて呼んでいた。


 このアンドロイドは試作段階だから、固定の呼び名は無かった。僕は、アンドロイドのことをお前って呼んでいたから不自由はなかったんだ。


 名前を付けておけば良かったと、後になって後悔した。


 アンドロイドの評判は上々で、親も嬉しそうだったし、家に来てくれて良かった。そんな風に思えた日は僅かだった。


 アンドロイドの呼び名が、フランケンのロボから、フランケンに変わっていた。誰がそう呼び始めたのかは分からない。フランケンと呼ばれ、僕が返事してもお前じゃないと言われる。


 家での話題もアンドロイドのことばかり、僕は、まるでそこに居ないかのように振る舞われていた。


 あんなに頑張ったのに……期待に応えるために努力したのに……


 お前呼ばわりしていたアンドロイドはフランケンとして認知されていた。僕はフランケンのおまけみたいになっている。


 いつかの日の話をフランケンはしてきた。


「これでやっと。お前のために僕は頑張ったよ」

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