不老不死の最強魔女、貴族騎士と恋に落ちる!?~呪いなんて解かなくて結構よ!私はお金と結婚するの!~
ティー
第1話 最強魔女、貴族騎士の妻になる
『ティリス、"また"結婚するんだって?』
「まだ結婚じゃないわよ。これから妻候補の人達の面談が始まるの」
そこにはドレスを纏い、化粧をしながら話す女性が1人。
『今度はどんな人なの?』
「超超お金持ちの貴族の騎士様よ!」
ティリスと呼ばれた女はふん!と自慢げに鼻を鳴らす。
通話の相手であるハミスは、凄いじゃない!と喜びの声を上げた。
「この私がそんな男を逃さない訳無いでしょう?」
『頑張って!!きっとひいおばあちゃんも喜んでるわ!』
「そうね。あら、そろそろ時間だわ。またねハミス」
白い鳥型の通信機の電源を切って、左右を団子結びにした、金色の髪の毛を整える。
「さ、行きましょうか」
白色のドレスと星型のピアスをつけ、少しの装飾品を身にまとい、バッグを手に取ってティリスは家を出た。
***
この世界は炎、水、氷、風、雷という5つの属性魔法というものが存在する。
それを5つの大陸がそれぞれ管理し、魔力を持つ人々がそれを使い、生活している。
その中でも特に魔力が強い人間を女性なら【魔女】、男性なら【魔道士】と呼び、その人達は属性魔法を全て所持しているが、そのようなものは現在、絶滅危惧種である。
ここにいるティリスを除いては。
「ここね」
地図で目的の国を指差し、ワープしてやってきたのは、炎の属性魔法を操るファルフェイム大陸の中でも最も大きい国である、フィブルス王国。
今回ティリスが狙っている男は、フィブルス王国の貴族騎士の名家の一つである二アテック家の次男、二アテック・イングリッドという26歳の青年である。
褐色の肌に黒く肩まで伸びた髪と後ろでひとつに束ねられた艶のある髪、鍛えられた筋肉で剣を振るい、体術で敵国との戦いや魔物を退治する姿は【炎の舞踏家】とも言われている。
そんな家の男が妻を募集するという情報を聞いたティリスは、直ぐさま申し込みをし、そして今に至る。
フィブルス王国の門の前には、大きな橋がかけられており、その前には門兵が何人もいる。
ティリスは、そのうちの一人に声をかけた。
「申し訳ございません、本日、二アテック・イングリッド様のお嫁様募集の件で来たのですが…」
「お名前を確認しても?」
ティリスは自分の名を伝えると、門兵は機械を取り出し、そこからリストらしきものが現れた。
ティリスの名前がある事を確認したのだろう、門兵はお入り下さい、と言って橋を下ろした。
橋を渡り国の中に入ると、門兵から連絡が行っていたのか、ニアテック家の人間だと名乗る男がティリスを屋敷へと案内した。
「ティリス様、こちらで暫くお待ちください」
「ありがとうございます」
客間を案内され扉を開けると、すでに2人の女が部屋で待っていた。
一人は貴族のマックスフォード家の長女、もう一人は魔法名家のガルバ家の次女。
2人とも周りから美人だと言われて来たのであろうか、ルックスには自信があるようで、ティリスが入ってきた途端、ティリスをじっと見つめてきた。
品定めされているようで、あまりいい気分ではない。
「初めまして、ティナリと申します。本日はよろしくお願いします」
「よろしくね。私はマックスフォード・アランよ」
「私はガルバ・ローランよ。仲良くするつもりはないわ」
アランから差し出された手を握ると、力を込めて手を握り返された。
笑顔でティリスを見つめるその目は、笑っていなかった。
***
暫くして、もう2人の女が客間に入ってきた。
その2人にティリスを含めた3人は挨拶を交わす。
一人は至って普通の家の子供らしく、もう一人は王族に仕える家の子供だそうだ。
先程の2人に比べると、家柄は劣る。
ファーストネームを名乗らなかったティリスも、その1人に入れられているのは言うまでもない。
先の2人はティリス達をライバル視などしておらず、いかに互いを蹴落とすかに注力している様だった。
(家柄だけで自信が持てるなんて、とんだお花畑ね)
数々の名家を渡り歩いてきたティリスだからこそ、それだけでは生きていけない事を知っている。
家事全般は勿論、義理の家族からのいじめや、戦いが起きた時の待ち人の帰還を待つ間の孤独、そして帰ってこなかった時の悲しみや苦しみ。
それらを乗り越えられる技量やメンタルがなければやってはいけない。
(ま、私に愛なんて必要ないのだけれど)
そんな事を思っていると、客間の扉が開いた。
「皆様、お待たせいたしました。これよりニアテック・イングリッド様とご面談頂きます。どうぞお越しくださいませ」
(この私に適うなどと思わない事ね)
ティリスは心の中で呟いた。
***
イングリッドへのアピールの順番はクジによって決められた。
その結果、ティリスは最後尾となった。
一番目は一般家庭の女、続いて魔法名家の女、貴族の女、王族に仕える女という順番だ。
それぞれがイングリッドへアピールを行い、妻になろうと必死になる。
妻を決めるのは、イングリッドだけではない。
言葉遣いも所作も、何もかもをここにいる使用人やイングリッドの両親が、別室でカメラ越しに見ているのだ。
「初めまして。本日は私の為にお越しいただきありがとうございます。改めまして、私がニアテック・イングリッドです。よろしくお願いいたします」
座っていたイングリッドが立ち上がり、皆に向けて挨拶をする。
この大陸では珍しい褐色肌に、高身長筋肉質な体型ではあるが威圧感を感じさせない垂れ目と甘い声。
ティリスが普通の女だったなら、惚れていたであろう。
後に続くように皆がよろしくお願いいたします、と挨拶を返す。
「それではまず――」
先頭の女からアピールが始まった。
料理が上手だとか、魔法を使ってこんな事が出来るだとか、常に家を清潔に保つだとか、家柄なら自分が一番だとか。
いかに自分が一番であるかを月々とアピールしていく。
退屈そうに聞いていると、ついにティリスの番が回ってきた。
「ではティリス様、どうぞ」
使用人に声をかけられ、立ち上がる。
「お初にお目にかかります。
「魔女…」
「……!!」
ここにいる全員がティリスを見た。
ティリスは物珍しいと言わんばかりの目線を無視して、話を続ける。
「全属性魔法を操る事が出来ます」
「本当か?」
「はい。――失礼しますが、窓を開けても?」
「ナルガ」
ナルガ、と呼ばれた使用人が慌てて窓を開ける。
「この花に水をやりましょう。どうぞ皆様、お越しになってください」
窓を開けた先の花を指差す。
「そんな事出来る訳…」
ローランが疑惑の目でティリスを見る。
いや、ローランだけではない、ここにいる皆がティリスの言葉など信じていない。
「それでは」
どこからともなく杖を取り出し、目を瞑って杖に魔力を集中させる。
少しすると、杖先からまるでジョウロから水が出るように、サァァと水が出てきた。
それを見て、全員が驚きのあまり声を出せずにいた。
魔女は存在するのだ、と。
「素晴らしいですね」
「有り難きお言葉」
「他の属性魔法も操れるのですか?」
イングリッドは興味津々にティリスに尋ねる。
掴みは上々、と言ったところだ。
「ええ、全て使えますわ。流石にここで使うのは危ないので使いはしませんが…」
「わかりました、ありがとうございます。ナルガ」
「は、はい!皆様、お戻りください」
ナルガの指示で席に戻る。
ティリスは心の中で勝った、とガッツポーズをした。
「ティリス様、他には何かございますか」
イングリッドがティリスに問いかける。
全属性魔法を使える、というだけで貴族騎士の嫁にはなれないとは思っていた。
ティリスは少し息を吐いて、言葉を紡ぐ。
「あの、これはマイナスになることなのですが…」
「どうぞ、何でも仰ってください」
「実は、私…。子を成せないのです」
その言葉に使用人のナルガがピクリと反応した。
貴族騎士の次男子だ、跡取りとまではいかないだろうが、長男の子のサポート役や、それに近しい役割を与えられるであろう子供を成せないのは、貴族としてはマイナス要素であることは容易に想像できる。
そもそも普通なら、子を成せない時点で応募するなどおかしい事なのだ。
そう、普通ならば。
「そんな女でもよろしいでしょうか?それ以外でしたら、この体、あなたが死ぬその時まで捧げると誓います」
ティリスは深くお辞儀をして、アピールを終えた。
「それでは本日はこれにて終了とさせて頂きます。合否の発表は――」
それから暫くして、ティリスの元に一通の手紙が届いた。
是非とも妻に来てください、とイングリッドの直筆の手紙が入っていた。
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