「冗談」をいう世界が嫌いで何が悪い

水浦果林

「冗談」をいう世界が嫌いで何が悪い

「アイツ仕事手伝わなかったしさぁ、予算に上乗せしてやらん?手間賃。」

「アンタはノロいんだから、先に着替えときなよー?」

「マジでアンタ、頭おかしいんじゃないのー?」

(……五月蝿い。)

 騒がしい部屋の中で一人、薫はスマホを覗き込みながら思った。

 彼女は、人を傷つけかねない『冗談』及び、『冗談を理解できない人間は悪』という風潮を嫌っていた。

「冗談、真に受けんなよ。ノリ悪い」という言葉に対しては、「言う方が絶対的に悪いだろ」という意見であった。

 どうしても言いたいのなら、真に受けられても困らないような冗談を言えばいいのに。どうしてそんなに簡単なことができないのか。

 『冗談』は、双方の理解の上で成立するものだ。どちらか一方が『冗談』だと思っていても、相手が不快に思えばそれは『冗談』にはならないのだ。

(それを分かってないやつが、この国には多すぎる……。)

 薫は、静かにため息をつく。

 容易に人を傷つけるやつのほうが人生うまくいっている。そのことも、彼女は気に入らなかった。

 いっそのこと、笑いもなにも必要ない世の中になればいい。

 人に「ノリ」や「ウケ」を求めず、真面目な話ばかりをする人間で溢れてしまえばいい。

 そもそも、言葉をかわす必要性が生まれた理由だって、笑いを取るためではないだろう。

 ……自分も含め、愚かな人間どもに、薫はまたため息をついた。

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「冗談」をいう世界が嫌いで何が悪い 水浦果林 @03karin

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