観測ログ13:報告と同行

ダンジョンを出て、三人はギルドへの道を急いでいた。風は夕暮れの冷気を含み、ヴォイドの汗ばんだ額を冷やしてくれる。


 だが、脳裏には今しがた遭遇した“それ”の姿が焼き付いて離れなかった。石と金属を練り合わせたような、重厚な巨体。矢を弾き、剣の刃も通さず、ただひたすら物理の力でねじ伏せるしかなかった、あのゴーレム。


 ヴォイドは肩越しに二人へ視線を送る。


「サーチでゴーレムが複数いるのは確認してたけど、それはギルドには秘密にしておきたいんだ。ほら、あんまり目立ちたくないから。」


 ライガが片眉を上げる。


「こんな報告して目立ちたくないもないと思うがな。ま、おかげで命助かったし文句はねぇけどな。」


 ミアがぴょんと跳ねるように歩きながら、明るく言った。


「じゃあ、あたしの気配察知ってことにしとく?私のスキルはもうバレてるし♪」


「助かる。頼む。」


 ヴォイドが軽く頷くと、三人の間に約束が交わされた。真実は伏せたまま、事実だけを伝える。それが、今の彼らにできる最善だった。


 ギルドの扉を押し開けると、受付にいたラナがすぐに顔を上げた。


「あ、帰ってきた!ずいぶん遅かったじゃない、無事だったの?」


 その問いに、ヴォイドは無言で布に包んだ物を取り出し、カウンターの上に置く。ラナが布をめくると、その中から紫がかった光を放つ大きな魔石が現れた。


 ミアの拳ほどもあるその魔石に、ラナの瞳が一瞬にして鋭くなる。


「……これ、どうしたの?」


「未踏破エリアを発見しそこでゴーレム倒し手に入れました。」


 その一言で、ラナの表情が凍りついた。


「未踏破エリア、ですって?」


 次の瞬間、彼女の声が一気に跳ね上がる。


「ちょっと! あなたたち、なに考えてるの!? あそこは初心者向けのダンジョンでしょう!? 未踏破エリアなんて、入る前にギルドに報告しなきゃダメよ! 先に何があるか分からないんだから!」


 ヴォイドが何か言いかけたところで、ミアが手を挙げて口を挟んだ。


「でも、私の気配察知で慎重に探りながら安全には気をつけて進んだよ♪」


「ならなんでゴーレムと戦闘になるのよ!」


「えへへー♪相手は一体だけだったし、ライガがどのくらい強いかちょっと試したくなっちゃって♪」


「お、おい!ミア!それは言うなって!」


「このゴーレムと同じような気配を他にも沢山感じたよ♪」


ミアはこっちに向けてウィンクしながら言う


「はぁ〜。まったくあなた達は…」


ラナはため息をつきながらぎゅっと拳を握りしめ、魔石を見つめた。


「……これだけの大きさの魔石、売ればひと財産になるわ。でも、そんなものがうようよいるなんて、本当にもう……!でも、無事に帰ってきてくれてよかった。」


 怒鳴りたいのを抑えるようにラナが深く息を吐くと、くるりと背を向けて言った。


「ギルドマスターに報告するから。ついてきて。」


 三人は顔を見合わせ、小さく頷いてラナの後を追った。




◆◆◆




 ギルドの奥、ふだんは立ち入りが制限されている執務室。そこにいたのは、見覚えのある男だった。


「……トニー先生?」


 ミアが呟き、ライガが声を上げる。


「ちょ、あんたギルマスだったのか!?」


 革の胴着に無精髭、いかにも武術一筋の見た目の男は、面倒くさそうに椅子を回して立ち上がる。


「ま、肩書きはギルドマスターだが、俺はあくまで“現場派”だ。書類仕事は他人任せだしな!」


「……納得だわ」ミアが苦笑する。


 ラナが魔石を見せつつ、口早に報告を始める。


「この子たち、初心者ダンジョンの7階で未踏破エリアを発見して足そこでこのゴーレムと戦闘、これを撃破。気配察知で他に多数の同じような気配を確認したそうです。」


 トニーが魔石を手に取って重さを確かめる。ごつい手のひらにすっぽり収まらないほどのそれを、じっと見つめて言った。


「こいつは……硬度と魔力濃度かは見て少なくともBランク相当、いや、それ以上かもしれん。ゴーレムってことは魔術は通らないと思っていいだろう。」


 トニーは部屋を歩きながら言葉を継ぐ。


「この村にいるのは最高でもCランク冒険者。こうなりゃ王都のギルドに、物理特化のAランク冒険者を派遣してもらうしかねぇ。」


「調査が終わるまでダンジョンは一時封鎖します」

ラナがきっぱりと告げた。


「それと、あんたたちには“発見者特権”があるわ。」


 ヴォイドたちが揃って首を傾げると、トニーが補足した。


「未踏破エリアを発見した冒険者には、国から調査同行の権利が与えられる。同行は自由だが、自己責任だ。危険だからと同行を断っても咎められることはない。そして——」


 彼は指を一本立てた。


「ダンジョン内で発見された貴重品やアーティファクトは、原則すべて王国の所有物となる。ただし、発見者および同行者には、一人一つだけ持ち帰る権利が認められる。これが発見者特権だ」


「お前らはDランクとEランク。

未踏破エリアの難易度は最低でもBランク!

無理しなくても調査隊が持ち帰った物から一つづつ選ぶのもアリだぞ!」


 ライガが拳を握りしめ、すぐさま言った。


「そんなの、行くしかねぇだろ。未踏破エリアに自分たちの足で踏み込めるチャンスなのに、ここで留守番して誰かが持ち帰ったお宝をもらうなんてそんなの冒険者じゃねぇ!」


「もちろんあたしも行く!こんなチャンス人生で何度もあることじゃないもんね♪」

ミアが元気よく続く。


 ヴォイドは二人を見て、ふっと小さく笑った。内心、正直なところ――お留守番でもいいと思っていたのだ。無茶な戦いは好まないし、好奇心で命を投げ出すつもりもない。

何より目立ってしまう…


 だが……


 ダンジョンの最奥。あの闇の向こうから、確かに何かに"観測"(みられ)ていた。



「……俺も行く。未踏破の先に何があるのか確かめたい。」


 その言葉に、ラナがほんの少しだけ笑った。


「わかったわ。派遣の手配を急ぐけどひと月くらいはかかるわ。

それまで大人しく待ってなさい。」


「調査隊が来るまでひと月か!それまでガンガン依頼を受けて3人で連携出来るように鍛えようぜ!


「イェーイ!修行だね♪」


「あなた達話し聞いてたの?

絶対に無理はしちゃダメ!ダンジョンにも近づいたらダメよ!」


 ヴォイドは静かに頷いた。


 未踏破エリア。

 その先にあるものが、何かを変える。そんな予感がしていた。

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