観測ログ12:迷宮の裏、未知の扉

 ダンジョンのセーフエリアで一夜を明かした三人は、早朝から準備を整えていた。


 ヴォイドは寝袋をたたみ、荷物を肩に背負う。軽く朝食を済ませ、気合十分といった様子だ。


「さーて、行くか! まずは五階突破だな!」


 ライガが大剣を肩に担いで笑う。


「ん! 今日も張り切っていくよーっ♪」


 ミアも明るく拳を握る。


 ヴォイドは木箱を背負いながら、周囲の荷物のうち“重いもの”をさりげなくブラックホールに収納していた。


(ライガには“荷物係”って顔してるけど……実際は半分以上持ってない。こういうとき、便利だなこのスキル)




◆◆◆




 セーフエリアを出ると、空気が一変した。


 広大な岩地の中、岩陰や小道の先に、獣型や飛行型のモンスターがひしめいている。


 突如、茂みから《スナウトボア》が飛び出した。


「来るぞ!」


 突進力の高いボアの鼻先がライガを狙う。反応したライガが剣を構えるが――


「うわっ!」


 突撃を真正面から受け、ライガの体が後方の岩壁へと叩きつけられた。


「ライガ!?」


「がっ……ぬ、抜かれた……っ!」


 ごつい体格のライガが、鼻から血を流しながら起き上がる。敵の力は、これまでの階層と段違いだった。


「こっちも来てる!」


 ミアの叫びと共に、上空から《ブラッドフラッター》の群れが急降下してくる。ヴォイドは咄嗟に棍を振るって近くの一体を叩き落とし、ミアの背後を守る。


「ミア、左右に分かれて動け! まとまってるとまずい!」


「了解っ!」


 二人が連携して群れを分断し、各個撃破に移る。


 その隙に、ライガがよろめきながら立ち上がった。


「チッ……やっぱ、ここからが本番って感じだな!」


 それでも歯を食いしばり、再びスナウトボアの突進に立ちはだかる。


 だが――


「待って、少し軽くする」


「ん、なんだ?」


「重力軽減」


 ヴォイドが小声で唱えると、術式が発動し、ライガの体がふっと軽くなる。


「……おお、前のやつか! やっぱり身体が動きやすい!」


「前にも一度使ったから大丈夫だと思うけど、感覚が変わるから気をつけてね」


「よーし、試してみっか!」


 軽くなった身体で、ライガが再び前線へ飛び出す。足の運びも剣の振りも鋭さを増し、突進してきたスナウトボアを逆に迎撃する。


 ヴォイドも補助に回りつつ、棍でブラッドフラッターの羽を砕き、ミアはナイフによる高速の斬撃で群れを仕留めていく。


 チームとしての動きが噛み合い、五階層を無事突破した。




◆◆◆




 六階、七階層も次第に地形が入り組み、暗がりが増える。モンスターの出現頻度こそ落ちるが、一体ごとの強さが増していた。


 中でも、七階で遭遇した岩甲殻のリザード型魔物ロックドラゴは、ミアの矢を弾き、ライガの剣すら斬れない堅さを誇った。


「くっ、ちょっと前より動きが……!」


「地形も悪いし、疲れが出てきてるね」


 ヴォイドは棍を構えて前に出ながら呟く。


「少し強引にいくか――“重力偏向、左前へ!”」


 棍を叩きつけ、相手の重心を崩すと、ライガがすかさず飛び込む。


「くらえっ!」


 剣がわずかに裂け目を作り、ミアの矢がそこを貫いた。


 こうして七階もなんとか半ばまで突破した三人だったが、そこでヴォイドの足が止まった。


「ん? ちょっと待ってくれ」


「どうした、ヴォイド?」と、ライガが首を傾げる。


「この先に……空間があるように感じる」


「へ? どこがだよ。どう見ても壁しかないぞ?」


「気配察知でも、何も……」ミアも目を細める。


 だが、ヴォイドの目は壁の奥を見つめていた。


「俺の《サーチ》では観測(みえ)る。この先に奥へ続く空間がある。“重力波”の跳ね返りが変なんだ。それに……あの壁、少し“ゆらいで”る」


 ライガがぽかんとした顔で言った。


「……お前、何言ってんだ? ゆらいでるって何だよ」


「うーん、ない。と、ある。が同時に存在していてどっちか定まっていない状態っていうか」


「もっと分かんねえわ!」


 ミアが笑いながらフォローを入れる。


「まあ、要するに壁の先に“見えない通路を見つけた”ってことでしょ?」


「うん、たぶんそれで合ってる」


 ヴォイドが壁にそっと手を当てる。


「俺が観測(み)た感じだとここに壁は、“ないはず”なんだよな……」


ヴォイドの指先が触れた瞬間、壁は波紋のように揺らぎながら、霧が晴れるように消えた。

その奥には、誰の記録にも残っていない、さらなる迷宮が続いていた。


「やっぱり……!」


「マジかよ! 壁が消えてダンジョンが!?」


「ここ、未踏エリアなんじゃ……!」


 ミアが目を丸くし、ライガが興奮気味に前に出る。


「入ってみる? 未踏とは言っても初心者ダンジョンだし、少しくらいなら……」


「様子見ってことでな!」「ん、レッツゴー!」




◆◆◆




 彼らはすぐに後悔した。


 サーチを駆使して進んだその先にいたのは、鋼鉄のように輝く岩の巨人――《ストーンゴーレム》。


 Bランク相当の強敵だ。


「っぶねえ!? 硬っ……!」


 ライガの剣が火花を散らして跳ね返され、ミアの矢は空しく弾かれる。


「普通のやり方じゃダメだ! 動きを止める!」


 ヴォイドは叫び


「重力軽減!」


 二人の身体が軽くなり、瞬時に距離を取る。


「重力倍加!」


 ゴーレムの巨体が一瞬にして沈み込む。足が地面にめり込み、腕を上げようとしても反応が鈍い。


「みんな!今だ!叩きこめ!」


 ライガの剣が膝の関節を砕き、ミアの矢が首元を狙って放たれる。


 ヴォイドも棍を構え直す。


(あいつの魔核は……胸の奥だ)


 重力波で位置を特定。渾身の突き――棍がゴーレムの胸へ貫通し、内部から光が漏れた。


 ――ストーンゴーレム、撃破。


サーチには同じ反応がゴロゴロしている


「ふぅ……危なかった……」


「まさか……未踏エリアがこんな強敵の巣とは……」


 ミアが息をつき、ライガが笑う。


「でも、やったな!」


 ヴォイドは肩で息をしながら、口元を引き締める。


「この情報は……ギルドに報告しないと。急いで、セーフゾーンへ戻ろう」


 三人は一時撤退を決断し、来た道を引き返す。


その背後で、未踏の迷宮が静かに息づいていた――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る