第1話
「柊、進路はどうするつもりだ?」
放課後、私は進路指導室に呼び出された。
昨日までに提出するはずの進路希望調査の用紙をまだ提出していないからだ。
「お前の成績なら、十分大学にも行ける学力だが…そのつもりはないのか?」
「…はい」
私は下を向いたまま答えた。
「じゃあ就職希望か?どんな職種に就きたいんだ?」
「えっと…」
特にやりたい仕事はない。
生活できるだけのお金を稼げればそれでいい。
今だってそうしている。
「ご両親がいなくてお前も大変なんだろうが、お前の人生なんだぞ」
そんなことは言われなくてもわかっている。
それに私はちっとも大変だとは思ったことはない。
余計なお世話だ。
「とにかく、なんでもいいから書いてくれないか?」
そう言われて第一志望の欄に事務職と記入した。
ようやく先生から解放されて、帰ることが許された。
「あー疲れた…」
廊下を歩きながら大きなため息をついた。
私も今年で高校を卒業する。
だからこれから生きていくうえで将来のことはちゃんと考えなければならない。
それはわかっている。
わかってはいるのだが…
それから学校からバイト先に向かった。
今日は、カフェのバイトのシフトが入っている。
更衣室に着替えに行くと、一人の女性がうつむいた。
私はその女性をなるべく見ないように着替え始めた。
ここでバイトをはじめた日、うっかり声をかけてしまった。
そしたらバイトの先輩に、「誰と話してるの?」と聞かれた。
そしてこの人がもう生きている人ではないことを知った。
これからも、こんなことに注意を払いながら生きて行かなければならないと思ったら、気が重くなった。
いっそのこと、この体質を活かせる仕事はないものだろうか。
着替えが終わり、私は店で仕事を始めた。
注文をとり、できた料理を運ぶ。
世話しなく動き回っていた。
冷房効きすぎじゃない?
歩き回っている私でも少し肌寒さを感じた。
今日は三十度を超える真夏並みの暑さだ。
いくら暑いとはいえ、これは強くしすぎた。
「あの、冷房強くしすぎじゃありませんか?」
私は近くにいた先輩の店員に小声で話しかけた。
「そう?いつもと同じだけど」
温度計を見ると、いつもと同じ温度だった。
もしかして、私だけ…?
だとしたら、原因はなんなのだろう?
何かおかしなことはないか、店内を見渡した。
あ……
店内に、何人かこの世の人ではないと思わられる人を見つけた。
サラリーマン風の男性、大学生ぐらいの女性、子供連れの家族…
これだけの霊がこの店にいるとは思わなかった。
「大丈夫?顔色が良くないわよ?」
先輩が心配そうに私の肩に手を置いた。
「あなた、風邪でもひいたんじゃない?今日は帰って、ゆっくり休みなさい」
この場にいたくなかった私にとって、それはとてもありがたかった。
「それじゃあ、そうされてもらいます…」
私は、帰る準備をして店を出た。
外に出ると、一人の青年がいた。
「あ、君はこの間の…」
「あ…」
この間、コンビニのバイトをしている時に、悪霊から助けてくれた人だ。
「この店から出てきたみたいだけど、大丈夫だった?」
「え?何がですか?」
「この店から、かなりの悪霊の気配がするからね」
やっぱり、この人は見える人なんだ。
「顔色が悪い。悪霊の悪い気を取り込み過ぎたんだね。待ってて、今ここにいる悪霊を祓うから」
青年は手を店にかざすと、目を閉じた。
「ここに巣食うものたちよ。黄泉の国へと導こう」
すると、店に漂っていた嫌な空気が消えた。
「もう大丈夫だよ」
「ありがとうございま…」
私は突然意識を失った。
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