世界一のしあわせもの―愛犬
マロ、これは俺の愛犬の名前だ。
マロは、大学生になって一人暮らしをはじめたタイミングで飼い始めた愛犬だ。
だが、2週間前に死んだ。けがや病気ではない。寿命で死んだんだ。幸せな奴だ。
早めに仕事が終わり、今日は手の込んだ飯を食わせてやるかなんて考えながら家に帰ったときには、すでに息を引き取っていた。
ソファの脇においた、お気に入りのクッションのうえで、夕焼けのやや強い陽の光を浴びて、まるで眠っているかのように。
不思議と、涙は出なかかった。
でも、仕事から帰ってきて開けた玄関のドアの先に命の気配はなく、乾いた餌皿と、ぬくもりの消えてしまったクッションだけが残っていた。
姪はマロをかわいがっていて、死んだ、ときいたときには、涙を流して悲しんでくれたらしい。
マロが死んですぐ、姪が遊びにきた。マロのお参り、と言って。
「おじちゃん、マロはしあわせだったとおもうよ。世界にはね、病気とかけがでしんじゃったり、飼い主に愛してもらえずに生きるわんちゃんもたくさんいるんだって。マロは、じゅみょうまでしあわせに生きて、おじちゃんに大事にお世話してもらえて、しあわせなわんちゃんだったよ。」
姪が帰ったあと、マロの写真とソファの脇に残されたクッションをみて、一粒の涙が頬を伝った。もう一粒、また一粒。
今まで、犬ごときに泣いていられないと強がって
いる自分がいたことに気づいた。なんて酷い飼い主だろう。
「ーっ、ごめん、ごめんな、マロ…。」
マロ、幸せだったかなぁ。
吠え声がうるさくて苦情がきた夜もあった。
朝、なかなか起きない俺の顔面に噛み付いて起こしたこともあった。
近所の幼稚園生に噛み付いて泣かせたこともあった。
食いしん坊で、おかわり連続注文されてはドッグフードがなくなり、俺の財布が泣きそうになる月もあった。
おまけに最後の最期まで呑気にひなたぼっこして、
最期の時に顔も拝ませてくれないような恥ずかしがり屋だったよ。
でも、一人で不安に苛まれる時も必ずそこにいて、悩みがあっても何も言わずに話だけ聞いてくれる、朝はいつも早く起こしてくれて、遅刻の心配はなし。
そんな最高の相棒だったよ。
本当に、幸せそうなやつだったよ。
ここから先はもう変に引きずっていられない。
人生を全うした相棒に恥ずかしくないように、一生懸命生きなければ。
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