感謝と約束

美月はゆっくりと顔を上げた。

その瞳には、覚悟のような強い光が宿っていた。


「……あのあと、家に帰って両親に謝りました」


「うん」


「なぜ自分が反抗していたのか、ちゃんと話しました。

そしたら……両親も“美月の気持ちに気づかなくてごめん”って言ってくれて。

時間はかかったけど、ちゃんと……和解できました」


歩は優しく微笑んだ。


「そっか……それは、本当に良かった」


美月は小さくうなずいたあと、ふと視線を下に落とした。


「でも、一つだけ後悔してたことがあるんです」


「え?」


「……あなたのことです」


歩は目を見開いた。


「……あの時、あなたの名前を聞いておけばよかったって。

それをずっと、後悔してました」


美月の声は震えていた。でもその言葉は真っ直ぐで、揺るぎがなかった。


「歩さんの言葉で、私は救われました。何度も思い出しているうちに、

いつの間にか……忘れられなくなっていたんです」


彼女は静かに、しかし確かに言った。


「……歩さんのことが、好きになっていました」


歩は言葉を失った。

複雑な想いが胸に広がり、ただ黙って美月を見つめるしかなかった。


「…それから、ずっと探してました。同じ場所に行ったり、この近辺をうろついたりして……でも見つけられなかった。もう一生会えないのかなって諦めていたとき……」


美月はふっと笑った。


「偶然通りかかった街で……カフェで働く歩さんを見かけたんです。奇跡みたいだと思いました」


「……そうだったんだ」


「……はい。

あの日から、今日まで──ずっと、歩さんのことを想い続けていました。

……どうか、私と付き合ってください」


沈黙が流れた。


歩はゆっくりと、深く息を吐いた。


「ありがとう……その気持ちは、本当に嬉しいよ。

でも……白鳥さんはまだ高校生だよね? わかってると思うけど、社会人と未成年の交際は、色々と……難しいことが多いから」


「わかってます。でも、私は本気なんです。

あの時出会えたから、変われたんです。歩さんは、私にとって……大切な人なんです」


歩は目を伏せ、少し考え込んだ。


そして、静かに顔を上げた。


「……わかった。

だったら、高校を卒業したあと──それでもまだ、気持ちが変わっていなかったら、

その時もう一度……君の想いを、ちゃんと聞かせてくれないかな」


「……!」


「君には、今しかできない高校生活をちゃんと過ごしてほしい。

俺も……俺で、自分の夢に向かって頑張るよ。だから、お互いにさ──」


「……はい!」


美月は涙をこらえるように笑った。


「私は、絶対にまた……歩さんに会いに行きます!」


歩も、小さく笑って頷いた。


「うん。待ってるよ」




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