第8話
食料と衣類の問題が少しずつ改善されてきたものの、この村にはまだ解決すべき大きな課題があった。それは水だ。
村の近くには小さな泉があるが、そこから各小屋まではかなりの距離がある。村の娘たちは毎日、重い水桶を抱えて泉と小屋を何往復もしていた。特にミリアのような幼い子供や、フィリアのように体が細い娘たちにとっては、この水汲みはかなりの重労働だ。
「兄様、水が……」
ある日、ミリアが息を切らしながら、ようやく汲んできた水桶を小屋の入り口に置いた。その額には汗が滲み、肩で息をしている。見ているだけで、その大変さが伝わってきた。
このままでは、彼女たちの体が持たない。どうにかして、水汲みの労力を減らせないか?前世の知識では、水道管を引くなんて技術はないし、そもそも設備も素材も手に入らない。だが、もっと原始的な方法で、何かできるはずだ。
俺は再び鑑定スキルを使い、村の地形や水源の状況を調べ始めた。泉から村へ向かう道のりは、わずかながら傾斜がある。これを利用できないか?
ひらめいたのは、水路のアイデアだ。泉から村へと、小さな水路を掘れば、水桶を運ぶ手間を大幅に減らせるはずだ。だが、水路を掘るにはそれなりの労力と時間が必要になる。そして、水が漏れないように、しっかりと土を固める技術も。
俺はさっそく、簡易加工スキルで枯れ木を加工し、簡易的な鋤のような道具を作り始めた。そして、村の娘たちに声をかける。
「みんな、水路を作るのを手伝ってくれないか?泉から村まで水路を引けば、もう重い水桶を運ばなくて済むようになる」
俺の提案に、娘たちは最初は半信半疑の顔をしていた。しかし、俺が簡単な図を地面に描き、水が流れる様子を説明すると、徐々に彼女たちの目が輝き始める。特に、普段から水汲みに苦労していた娘たちは、前のめりになって話を聞いた。
「もし、本当にそれができたら……!」
フィリアが小さな声で呟いた。
翌日から、村の娘たちが水路の建設に加わってくれた。最初は慣れない土木作業に戸惑っていたが、俺が鑑定スキルで土質の良い場所や、水が流れやすい傾斜の場所を示し、簡易加工スキルで土を固める方法を教えると、徐々に手際が良くなっていった。
「ここに、石を敷くといいぞ。水が染み込みにくくなる」
「そこの土は柔らかいから、もっと固めた方がいい」
俺は指示を出し、娘たちは黙々と作業を続ける。皆の顔は土で汚れ、汗で光っていたが、その目には確かな希望が宿っていた。特に驚いたのは、力仕事に不慣れだと思っていた娘たちが、想像以上に粘り強く作業をこなしたことだ。
何日もかけて、ついに泉から村へと続く、小さな水路が完成した。粗末な土の溝だが、その先には確かに水が流れている。
俺は試しに、水路の終点に掘った小さな溜め池に、木製の水差しで水を汲み上げてみた。透明な水が、音を立てて溜め池に注がれる。
「できた……!」
俺の声に、周囲に集まっていた娘たちから歓声が上がった。ミリアも目を丸くして水路を見つめている。皆の顔に、この上ない喜びが浮かんでいた。
水路ができたことで、村の生活は一変した。水汲みの労力が減っただけでなく、溜め池の水を畑に引いたり、洗濯に利用したりと、様々な面で生活が豊かになった。
飢えをしのぎ、寒さを防ぎ、そして日々の労苦を減らす。衣食住の全てにおいて、俺の介入が、この村に確かな変化をもたらしている。しがないモブの俺だが、その貢献は、着実にこの村の娘たちの生活を楽にしていた。
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